本田 由紀(東京大学大学院准教授)
2007年11月27日仕事や精神的拠り所の面で、「生きづらい」状態に置かれている若者たちが増えている。彼らの声を代弁する存 在であり、本誌の11月号にも登場した雨宮処凛さんは、別の場所で次のように書いている。「…だって、学校で教えられてきたことは全部嘘だったのだ。頑張 れば上昇できると小学校から高校までの12年間、どれほど刷り込まれてきただろう。そしてそのために、どれほど無駄な努力をしてきただろう」(『世界』 07年11月号)。もちろんここには雨宮さんらしいレトリカルな誇張が含まれている。しかし、「学校で教えられてきたことは嘘だった」という失望感を抱え て生きている若者は決して少なくない。
そしてそのような問題を現在の学校教育がはらんでいることは、教える側の人びとによっても認識されるように なっている。たとえば日教組副委員長の高橋睦子さんは、「たしかに、若者の労働については日教組にも責任があると思っています。(中略)学校での学びと社 会に出てからの労働というつながりについては、私たち自身が向き合うべき教育課題だと思うんです」(『論座』07年12月号)という率直な反省を述べてい る。
これまで日本の教育が、子どもが社会に出たのちの仕事や生活と教育内容との連関についてあまり顧慮せずにす んできたのは、新規学卒一括採用の慣行と企業からの高い若年労働力需要により、若者の「学校から仕事への移行」が表面的にはきわめてスムーズであったこと による。しかし、そのような学校教育と仕事との関係性は、90年代にみるみる崩壊してしまった。確かにここ1、2年は新規学卒採用需要に回復が見られる。 しかしそれでも若者の一定数は不安定な状態のままで学校を離れるし、いったん正社員になった後に仕事の過酷さやミスマッチにより離脱する者も後を絶たな い。
こうして従来の関係性が成り立たなくなって初めて、学校教育は、子どもや若者を仕事生活・社会生活に向けて いかに準備させることができるのかという課題に直面することになった。今のところこの課題への対応は、「キャリア教育」という、意識啓発や「体験」の提供 に偏ったものに留まっている。しかし「キャリア教育」へのとまどいや疑問の声も、教育現場から上がり始めている。他方では、若者自身が自分たちの身を守る ために労働法の知識などを盛り込んだ小冊子の作成・配布に乗り出している(NPO・POSSEホームページ参照)。若者が適応と抵抗を使い分けて厳しい外 部社会を生きていってくれるようにするために、学校教育は何ができるのか。そのための知恵と工夫を急いで集め、形にしてゆかなければならない。
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