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格差・不安定社会を越える
第1回 仕事の世界生き抜くわざを 教育は若者に与えるべきだ
本田由紀(東京大学大学院准教授)

本誌4月号まで4回連載した「不安定・非正規を生きる君へ」では、青年層が多く巻き込まれている荒廃した労 働の世界を紹介した。この新連載では、この現状を変えていく端緒や視点や試行例など、状況を切り開く途について、さまざまなフィールドから探りたい。労働 の世界の前段階に位置する教育の場から何をすべきか、本誌コラム筆者の本田由紀さん(東京大学)の提言からスタートする。

労働力調査の2007年平均結果によれば、15〜24歳の若者(在学者を除く)のうち非正社員は男性で 26.7%、女性で35.7%を占める。25〜34歳の非正社員人口は2006年まで増加を続け、2007年に若干減少したが、依然348万人と高い水準 にある。学校基本調査によれば、2007年3月に高校を卒業して仕事を得た者の中で「一時的な仕事に就いた者」が7%を占め(普通科では10%)、「左記 以外の者」(家事手伝い、進路未定者など)まで含めれば25%に達する。また厚生労働省の調査結果では、高卒就職者の中で就職後3年目までに離職する者は 約半数に達している。

このように、若者の「学校から仕事への移行」の不安定さは、「好景気」や新規学卒労働力需要の回復のもとで も依然として続いている。一方には低賃金と不安定雇用に苦しむ非正社員、他方には過重労働に苦しむ正社員という構図には、何ら変化がない。賃金不払い残業 や労働者派遣・請負などに関わる法令違反数も上昇の一途をたどっている。

こうした状況下で、いったい教育機関や教員が何をなしうるのかを考えると、悲観的な思いに駆られもする。し かし、確かに言えるのは、現在の仕事の世界における様々な悲惨は、結局のところ、働かせる側と働く側とのパワーバランスが著しく損なわれており、働かせる 側にとっての効率性の貫徹や恣意的な差別がまかり通っていることに由来するということである。それならば、どうしても必要なのは、働く側である若者のエン パワーメントである。

エンパワーメントは複数の側面を含む。ひとつは、不当な働かせ方に遭遇した場合にいかなる対処の手段がある かについての実践的なノウハウを知らせることである。労働組合の意義と活動の仕方、労働関連諸法についての基礎知識、就労の際に労働条件を書面で取り交わ す必要性、日々の働かされ方についての記録をとることなど、働く者が身を守るための具体的なすべを、労働市場に出る前の学校教育において、すべての若者に 伝える必要がある。

このような〈抵抗〉のためのエンパワーメントに加えて、同時に求められるのは仕事の世界に〈適応〉する、言 い換えれば労働力として高い価値を発揮するという意味でのエンパワーメントである。すなわち、仕事に関わる汎用的および専門的な知識やスキルを若者に身に つけてもらうという責任を、教育機関や教員は担っている。これは、単に厳しい現実への高い〈適応〉力をつけるためではなく、〈抵抗〉に際しての主張力や交 渉力、労働者間のつながりを強めるためにも必要なことである。

むろん、教育を通じたこれらのエンパワーメントのみで、仕事の現実が改善されるわけではない。労働政策や福 祉政策を通じた若者への支援や保護は不可欠である。しかし、教育機関や教員もまた、目前の生徒の進路の確保のみに留まらず、仕事の世界の現実を直視し、そ の中で生き抜いてゆくわざを若者に与えるという課題に、本気で取り組むことが求められている。

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