竹信 三恵子(朝日新聞編集委員)若者の半分が非正規雇用という不安定社会を乗り切るために教育の場の取り組みが必要なことは、この連載で何 度も指摘されている。家庭や地域では、働く権利について話し合う機会がほとんどない。学校で教えなければ、若者は丸裸で過酷な職場に放り出されることにな るからだ。だが気になるのは、知識を教われば使いこなせるのか、という点だ。
若者の労働を考えるNPO「POSSE」の06年の調査では、労働基準法を知らない若者は、正規・非正規と もに37%にのぼった。だが、「知っている」と答えた若者も、多くが、不満があっても改善を求めず転職すると答えた。若い非正規労働者らが加入する「フ リーター全般労組」の清水直子委員長も「労働法を知っていてもサポートする仲間や組織がないと活用できない」と話す。その結果、若者は「あっさり」職場を やめ、泣き寝入り転職を繰り返しては労働条件を下げていく。
一方で、競争社会を強く生きてほしいと願う学校の教職員たちは、「自立して生きろ」と子どもたちを励ます。 そのときの「自立」とはおそらく「人に頼らずがんばれ」という意味だろう。だが、これをまともに実践すれば、子どもたちは、一人で黙って耐えることにな る。その先は泣き寝入り転職である。
教職員の労組がすべきことは、こうした「自立」観の転換だ。人間は社会的な存在で、助け合うことで何かをな しとげられる。だから、「自立」を「だれにも頼らないこと」ではなく、「困ったときに適切な人を探し出し、助けてといえる能力」と定義し直せば、ずっと実 態に合った対応策をこうじることができる。常日頃から、助けになるネットワークをつくっておき、いざとなったらその知恵を借りる手があることを教えられれ ば、さらにいい。
職場でいじめにあったり、突然クビと言われたりしたら、ユニオンなどに相談すれば、それらは違法で悪いのは あっちだ、と教えてくれるはずだ。それができないために自分を責め、自信を失う若者が、どれだけ多いことか。クビになって収入がなくなったら、生活保護で しのぐのも自立のひとつだ。人は一時的に危機に陥ることがある。これを支えて元のルートに戻す命綱が福祉だ。パソコンなどで支援団体を検索して連絡すれ ば、この人たちが支え手になってくれることも多い。
自立と孤立は違うということ。競争社会には、人を蹴落とすノウハウより一緒に闘ってくれる人を見つけ出す連帯のノウハウが有効であること。日教組が教職員たちに、こうした発想の転換を呼びかけ、身をもってこれを子どもたちに伝えていくことが急務だ。
こうした技術の実践は、不器用なタイプの生徒には難しいかもしれない。でも、「自立とは、助けてと言える力」「競争社会で必要なことは連帯」という言葉を知るだけで、若者たちはずっと元気になる。労働についての知識は、こうした土壌の上でこそ生きてくる。
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