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なださんのメンタル・スケッチ
第9回 効くクスリの結果

20世紀の後半から、いい不安を鎮めるクスリ(安定剤)が出てきた。おかげで、沢山の患者に応対できるようになった。患者の気持ちを落ち着かせるために、話を30分も聞いてあげなければいけない時代は、10人の患者を診るのがせいぜいだった。だが、40年ぐらい前にさまざまな、不安を鎮め、眠気も催させないよく効くクスリが出てきてから、ちょっと話を聞いて「それなら、この薬を飲んで様子を見ましょう。1週間後に来てください」ですむようになった。これなら30人の患者が来ても大丈夫だ。精神科医も他の科の医者並みに3分間医療ができるようになったというわけだ。

だが、不安になったら、クスリをのめばいいのだから、不安を克服する努力をしなくなる。「息子が試験場で上がらないで実力を発揮できるように、安定剤をください」などという親が現れるようになった。「これ、病気かな」と思われ例にもクスリが使われるようになった。

世の中には、不安の種にはこと欠かない。さらに新聞やテレビが事件が起きるたびに大騒ぎして不安を掻き立てる。そのたびに不安になり、クスリを求めて精神科医のところに来る。さらには不安の予防としてクスリがのまれる。うつが増えたといわれる時代は、安定剤に依存する人が増えた、といいかえることもできる。

だが、人間は不安と正面から向かいあわなくなった。人生はじつは不安とは切っても切れない関係にある。シャカムニは、今、健康なら、いつか病気になるという不安、生きていればいつか死ぬという不安、肉親がいればいつかその肉親と分かれねばならぬ不安がつきものだとしった。シアワセの絶頂でそれを失う不安を知った。そこからかれの悩みが始まり、悟りを開こうとする。

クスリのない時代の人間は若い時代に必ずこの不安に向き合った。それは今から考えれば病気と呼べるかもしれない。今は「あんたそんなことにくよくよするの病気じゃない?医者にいってクスリをもらってきたら」になってしまう。かつては悩んで大人になった。「悩みを通してしか賢くなれないことを、神は人間の掟とされた」はギリシャ悲劇の中の言葉だ。2千年以上前のギリシャ人はすでにそう思っていた。今、世界に大人になれないものが増えている。

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