山下くに子のこの1枚

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元FM横浜アナウンサー。小学館ビッグコミック『CD探検隊』連載中の『山下くに子』がお薦めするバラエティに富んだ名盤の数々をご紹介します!

秋のスタートダッシュは、ダブル効果あり!?

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秋のスタートダッシュは、ダブル効果あり!?
マティアス・ヘフス
「トランペット・アドベンチャーズ」
  発売日: 2011/12/21 品番:OVCC00095 税込:3,000円
2012年10月1日

yamashita1210.jpg世の中には見たことのない楽器というのがけっこうありますが、身近なトランペットなのに、こんなの見たことがない、見たことあっても音を聞いたことがない、というのが、このダブルベルトランペット。ダブルベルの名のとおり、トランペットの先端、アサガオのようにひらいたベルの部分がふたつあります。

 ひとつのベルにはカップ状のミュートを着けて音色を変え、一方のベルでストレートな音を出します。単純に考えても、音の幅が広がることは想像できますね。ですが、聞いてみると、音の広がりというより、空間が広がる感覚が芽生えます。1本のトランペットなのに、自分との距離が縮まったり遠ざかったり…。不思議です。

演奏しているマティアス・ヘフスは、世界的にもトップクラスのトランペット奏者。ドイツの金管アンサンブル、ジャーマンブラスのリーダーも務めています。トランペットは、サックスやリコーダーと同様に、キーになる音によって種類があり、プロは数種類を吹き替えますが、彼は、あえて珍しいトランペットに挑戦し、このダブルベルも世界初の収録とか。演奏にはかなりの技術が必要だそうですが、彼は、フレーズごとはもちろん、音によって吹き分けることまでしてしまう。それも、すんなり滑らかに!聞いていると、いろいろな音が出ているのがよくわかります。特にこのアルバムはダブルベルトランペットのために書かれた曲なので、クラシックの要素があったかと思うと、ジャズあり、ラテンありで、まさにアドベンチャー。一瞬、トランペットではなく、パンフルートのような繊細な楽器に聞こえるときもあり、ダブルベルという珍しいトランペットの魅力をたっぷり味わえます。

トランペットは、紀元前のエジプトの壁画にも描かれるほど長い歴史を持つ楽器ですが、現代のように演奏を楽しむようになったのは17世紀頃からで、それまでは、軍隊用のラッパに代表されるようなものだったといわれています。ということは、逆に考えれば、トランペットは、テンションを高め、何かをスタートするきっかけの音として、2000年以上もの長い間、人類の意識に溶け込んでいることになりますよね。

秋は、何か新しいことを始めるシーズン。ぐいと背中を押してくれるきっかけとして、トランペットの音は効果がありそうです。歴史が証明しています。もしかしたら、過去の偉人も、この音で大きくスタートダッシュを切ったかもしれませんよ。

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