山下くに子のこの1枚

写真
元FM横浜アナウンサー。小学館ビッグコミック『CD探検隊』連載中の『山下くに子』がお薦めするバラエティに富んだ名盤の数々をご紹介します!

すでに今年のベスト盤候補。生命力と希望の交響曲。

写真
タイトル
大友直人指揮 東京交響楽団
交響曲第1番‘HIROSHIMA’
  発売日: 2011/7/20 品番:COCO-84901 税込:2,900円
2013年2月1日

yamashita1302.jpg何か新しいことを提案しようとするとき、企画なるものをまとめるのが一般的です。感性勝負の音楽業界でも、それは同じ。まずは、ターゲットとする年齢層を設定し、流行やらタイアップの可能性やらを盛り込み、曲を完成させます。いい曲=ヒット曲になるはずですが、とりあえずはヒット曲を生むことが大前提となります。

ところがそのような大前提とずれた場所、いわゆる予想外のところからヒット作が生まれることが往々にしてあります。それは企画云々ではなく、これはいい!という情熱に似たところから生まれるのですが、一番わかりやすいのが、ちょうど一年前に大ヒットした、由紀さおりのアルバム「1969」。これは、ピンク・マルティーニが「このヴォーカル、すごくいい!この人とやりたい」という想いが結実したものでした。

同様に、今、多くの人の想いに押されているアルバムが「交響曲第1番 HIROSHIMA」。作曲したのは、佐村河内守(さむらごうち・まもる)。私個人としては、現代のベートーベンという表現はあまり好きではないのですが、わかりやすい表現ではあります。なぜなら、彼は、原因不明の聴覚の異常などで、30代にして聴力を失ったから。被爆二世でもある彼は、嘔吐や全身痙攣などの症状に苦しみながら、このHIROSHIMAを書いたそうです。テーマは闇の向こうの希望の光。

現在49歳。2007年は同じタイトルの自叙伝を出版、壮絶な人生と作曲への執念が綴られていますが、やはりこの交響曲の音が、作曲家としての自伝のよう。80分という長さで、ものすごく重厚な、暗雲が垂れ込めるかのような音が続きますが、その発せられる源へと近づきたくなる吸引力があります。自分と音が対峙するような感覚が続き、そして、最後には自分自身にチカラが湧いてくる…。不思議な交響曲です。

今もなお、身体の内にある絶対音感で曲を書き続けている佐村河内。テレビ番組でも取り上げられ、今クラシック界で話題もちきりのCDですが、彼は「鬼武者」などゲーム音楽も手がけているので、もしかしたらゲーム世代の若年層にはおなじみの作曲家かもしれません。その圧倒的なパワーによって、いつのまにか自分が心の内に閉じ込めてしまった情熱や夢という言葉を開放し、一歩、さらに前に進む気持ちを奮い立たせてくれる…。交響曲の持つ説得力を感じるアルバムです。

pagetop