山下くに子のこの1枚

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元FM横浜アナウンサー。小学館ビッグコミック『CD探検隊』連載中の『山下くに子』がお薦めするバラエティに富んだ名盤の数々をご紹介します!

華やかな音色に地道な努力

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華やかな音色に地道な努力
小倉貴久子(演奏), J. L. デュセック (作曲)他
イギリス・ソナタ ?ブロードウッドの響き?
  発売日: 2012/5/7(CD) 品番:LMCD1960 税込:3,045円
2013年9月2日

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時折、タイトルになっている「ブロードウッド」は、1771年に創業したイギリスのピアノ・メーカー。ちょうど産業革命の時代で、モーツァルトが「魔笛」を初演し、ベートーヴェンが活躍していた頃のピアノを演奏したアルバムです。

当時のピアノは、今の鍵盤が7オクターブあるピアノとは違い、鍵盤は5オクターブ半。例えばベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」が5オクターブで書かれているのも、その時代のピアノの音域によるものです。

交響曲の父と呼ばれるハイドンも、イギリスに行った際、このブロードウッドのピアノと出会い、その表現力に刺激されてピアノソナタを書いたと言われています。

浜松にある楽器博物館で大切に保存されている当時のピアノを演奏したのが、このアルバム。200年も前のピアノの音色を楽しめます。現代のピアノとは違い、柔らく軽やかな響きで、余韻が長く残ります。構造的にも現代のピアノとは違うため、鍵盤のタッチはかなり柔らか。たぶん、現代のピアノを弾くよりも技術が要求されると思われます。

演奏しているピアニストの小倉貴久子さんによると「単に音を出すのは簡単だけれど、一番良い音を響かせるのが難しい」とのこと。規格や世界標準なぞ無かった時代の楽器は、それぞれに個性があるため、その個性を捉えてベストの音を鳴らせるかどうか、ということですね。

なんとなく、教育の現場と似ていますね。楽器がどういう状態にあるのか、どのような個性を持っているのか、それを捉えて最高のパフォーマンスを作ってあげるには、どう向き合うのが良いのか…。

このアルバムの制作は、このピアノを収蔵している浜松市楽器博物館。ピアノのみならず、収蔵しているヴィオラやフルートなどの楽器を演奏したシリーズの1作で、昨年度の文化庁芸術祭レコード部門で大賞を受賞しています。音楽ビジネス的には地味な1枚ですが、昔のピアノの魅力を磨き続ける日々のメンテナンスや、その音を少しでも多くの人に届けたいという強い想いを感じられます。そう、何か結果をだすためには、やはり99%の努力が必要なんですよね、と再認識させられます。

収録曲は、ハイドンのイギリス・ソナタをはじめ、デュセックのソナタ、ベートーヴェンの「ヴァルトシュタイン」など、誰でも知っているというポピュラーな曲ではないけれど、産業革命当時の勢いや力強さ、そして華やかさを感じさせるものばかりで、その曲が作られた時の音色をそのまま楽しむことができるのが最大の魅力です。

ちなみに、このシリーズは現在46作。まだまだ更新中だそうです。

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