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山下くに子のこの1枚

転換力の時代
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川畠成道 |
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無伴奏の世界 |
発売日:2015/8/19 レーベル : VICC‐60932 価格:3,000円+税 |
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2016年1月1日 |
視覚障がいを負ったヴァイオリニストとして、その著作などが音楽鑑賞教材や現代文の教科書にも採用されているので、ご存知の方も多いと思いますが、川畠成道さんの最新アルバムです。ヴァイオリン1本だけの無伴奏の世界。忙しい年末や気持ちが切り替わる新年にうってつけの静謐サウンドが広がります。
アルバムには、パガニーニなどおなじみの名曲が収録されていますが、注目は、あのゴーストライター騒動で渦中の人となった新垣隆さんが新たに書いたヴァイオリン・ソナタが収録されていること。世界には、コンサートで弾くような無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、バッハ、イザイなど13曲しかなく、この新垣さんの作品が14曲目になるとのこと。まさに新しい世界を切り拓いたことになりますね。川畠さん自身も、この14曲すべてを演奏することを当面の目標としているとか。すごい取り組みです。
一般に、楽譜には、メロディだけでなく、強く弾くとか、ここで最初に戻るとか多くの情報が書き込まれていますが、彼は、楽譜を見て情報を確認しながら弾くことができないため、覚える力がものすごく付いたそう。
障がいは「できない」こともあるけれど、誰にだって「できない」ことはあるわけで、「あの時があるから、今がある」と思えるか、その時が来るのをイメージできるかどうかが勝負のような気がします。ゴーストライター騒動の新垣さんを含め、自分や自分の周囲の「マイナス」と向き合う力や、それを「プラス」に変えていく転換力があるかどうか…。
でも、その転換力は、誰にでもあって、自分では気づかなくても、あなたに縁のある誰かが、背中をそっと押したりしているはずなんです。誰も居ないと思っていても、無伴奏のシンプルな音の向こう側に、作者、過去の演者、そして聞き手など、多くの人の想いが重なっているように…。
年賀状など新年のやりとりで、人との関わりや縁について想いを馳せる時期。ちょいと、周囲を信じて進んでみませんか?