ゆみさんのメンタル・スケッチ

第11回 タクアンの味

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2014年08月01日
第11回 タクアンの味

先日、精神神経科の全国学会に参加しました。日本の教職員のメンタルヘルスに関連したシンポジウムもありました。今年は、直前にOECDの世界レベルの統計のまとめが発表されるなどもあり、関心が高くなっていることを感じました。

新任や若い教職員のメンタルダウン、中堅の病気休職、いじめの問題、時間管理の難しい教員の疲弊、教職員特有の「学期制に合わせる」ために生じる疾病・休職・復職時の困難な事情などなど、一つ一つ具体的・現実的な知見の大切さを改めて思いました。

さて、シンポジウムの中で、「若い教職員のメンタルサポートが深刻な課題」というのを聞きました。教育という大きな概念と同じにするのは無理があるかもしれませんが、「総論での理想はかなり共通し、明確にできることなのに、現実には、各論で一つ一つ向き合って現実解決を繰り返しなんとかやっている」のは、子育ても同じだったなあ、とぼんやりと思い出していました。関心のあまりない人と話し合っても何かかみ合わず、最後は総論での理想論にまとめて「はい、ではまた」となることが多くありました。

子育ては人によって背景の事情が多様で、それぞれの辛さも喜びも人と比べられないもの。しかし若い子育て中の方に、「子育てと医学部の学業と家事と、親や家族の全面協力は無理な中でよくなさいましたね」とお褒めにあずかるときは、「ありがとうございます。」とお返事し、「失敗談は話さずにいよう、夢を壊してはダメ!」と頭の中で頭を下げています。若いからといってそれはありなの?というような恥ずかしい冷や汗の繰り返しでかなりの部分それは成り立っていたとも言えるからです。

どうしても参加したい重要な研究会に車で出た時です。今でいうチャイルドシートは無い時代でしたが、万一の衝突で子どもが放り出される危険は知っていたので、後部座席のくぼみにタオルを敷いて深く寝かせ「寝ていてね」と言い聞かせ出発しました。ところが、途中でいきなり車体ががくんとなり、滑るようにハンドルを持っていかれました。ガードレールにぶつかっても止まるしかない!と死ぬ思いでなんとか路肩に止めることができました。助かった、子どもは? と見ると、後ろからかわいい手がにゅーっと伸びて想像を超えた力でマニュアルシフトを押していたのです。

この死ぬ思いの後にも、懲りない私は予約してあった研究会近くの「無認可保育所」へ娘をあずけ、駐車場を探す時間がなかったので、ここなら迷惑は軽いかという路上に不届きにも駐車し、2時間後にもどると駐車違反で切符をいただき、たっぷりと交番の方に叱られました。

今でも、「○ちゃんは、小さい時自動車で運転中いたずらしてね、お母さんをすごく困らせたのよ。」と、(私の身勝手・無謀さであり、理屈がさすがに違うよねーとは思いつつも)そう母が食卓で言うことがあります。私は黙って下を向きタクアンなどをポリポリしています。娘はというと、食卓で「保護者の安全配慮のなさ、無責任、無謀!」などとは言うことはなく「また同じ話だね」と笑っています。こんな場面で笑っていてくれる娘になってくれたことだけで、若い時の後悔が山ほどある私にも、タクアンは甘く味わい深く。


精神神経科医 労働衛生コンサルタント  牧由美子

pagetop