ゆみさんのメンタル・スケッチ

第14回 ひそやかに効く薬

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2014年11月01日
第14回 ひそやかに効く薬

教職員の方々のうつ病などによる休職から復職直前の過程で、相談を受けたりお話を伺ったりすることがよくあります。

一般企業とも共通していますが、休職中のリハビリを職場の外の医療機関で終える場合もあるし、復職された後も負荷の少ないポジションに置かれて「段階的復職」をされる方もあります。

児童生徒への思いとは別に、復職前の一番の心配ごとをお聞きすると、「休職前の自分のとってきた面目ない行動で周囲の同僚に多大な迷惑をかけたのを思うと、どういう顔をして挨拶をすればよいのか。また休職中に、ご自分の多忙な仕事以外に私の分を務めて下さった同僚に、どうお詫びを言ったらよいのか、先生が言うように感謝をして回っても許してもらえない人もいると思うと、それが一番の不安・悩みです。」とおっしゃる方は多いです。

先日こんな悩みを打ち明けて下さった◯◯先生へ、私は「◯◯先生ご自身も、倒れて休職された同僚の仕事を引き受けられていく中で、誠意をもって務められていらした。一人で抱えすぎて、ついに病気の域にまで行ってしまい、心ならずもの行動が少なからずあったのも今は面目なく感じておられるのですね。

けれど、復職後初期の時間を、お詫びをどう言うかというよりも、病気休職を支えてくれた仲間に感謝の気持ちをとりあえず伝える時間ととらえれば、それが皆の為にも自分の為にも有意義に次の一歩へつなげてくれるのではないでしょうか。それ以上のことを今はできなくても、そんな中で、『ゆるやかに効く薬』がだんだんわかってきて、それはこれからも、効いてきますよ。」とお話ししました。

このように話した私自身、20代で年子の兄を突然亡くした時、心の気圧を上げて元に戻るのに数年の歳月がかかったことがあります。亡くした直後に精神的に引きこもってしまった時期に、支えてくれた友人のありがたさに、最近になって気づいたこともあります。

最近、お世話になった人の名前がでてきにくくなった母と一緒に、昔住んでいた町ごとに知人・友人の名前をカレンダーの裏に地図と共に書き出すゲームを始めました。

その中で、私の中学時代の友人で、その後互いに引っ越しする中で、音信不通となってしまっていた◯田さんの名前が上がりました。すると、いろいろな事を忘れてしまっている母が、「ああ、◯田さんは、お兄さんの葬儀に参れませんが、とピアノで『レクイエム』を弾いて、録音のテープを送って下さったねー。ありがたいことだったねえ。」と突然思い出したのだ。そうだ、そうだった。何ということ、プロではない◯田さんが、私へどんなに練習されて心を込めて弾いてくださったことか。その時には、ご厚意にお礼の手紙を出したのには違いないが、まだまだ辛さが先に立っていたその頃の私の感謝の手紙は、きっと◯田さんの、その支えの気持ちに相当するものであったとは、面目ないがとても思えません。けれど、このテープは、その後の日々の生活に追われ、きちんと思い出すことが今になってしまったけれど、ひそやかに、ゆるやかに効く薬だったとわかったのでした


精神神経科医 労働衛生コンサルタント  牧由美子

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