ゆみさんのメンタル・スケッチ

第16回 ええやん!

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2015年01月01日
第16回 ええやん!

私は同窓会というものに、どういう訳か、ほとんど縁のない人間でした。ところが、ひょんなことから先日、関西に住んでいた頃の小学校の同窓会に出席することになったのです。最後に同窓会をしてから、すでに30年以上が経ち、転勤族も多かった土地柄から、全国に散らばった人たちも多いなか、先生はご高齢の為出席はかなわずでしたが、20人の級友が小学校近くに集うことになりました。幹事さんは大変な実力の持ち主であったと感じいりましたが、さすがに小学校卒業以来の方も多いので、まずはお互い顔がわかるかと心配になりました。

小学校の建物はすっかり新しくなっていることは知っていましたが、プールの場所や、玄関の向きや、そして級友の顔や、声や、少しでも変わっていないところを見つけては思い出を手繰り寄せればと、そんな風に思って新幹線に乗りました。

ところが、実際に皆に会ってみると、どんなに外見が変わっていようと、名前もあだ名も何もかもすーっと出てきて、まるで昨日まで一緒に遊んでいたような感じに驚きました。

宴もたけなわに「次は、たくあん、たくあん!味噌漬け!」と呼ばれ、私は何かエピソードを話して、と言われたときのためにとっておいた、このあだ名の話をしました。

年頃の少女に「たくあん」とは、どう考えても素敵なあだ名ではありませんよね。下手をしたら(本人がその名前で呼ばれることを不快に感じていたら)、いじめにつながるかも?とさえ、今なら考えてしまいます。いえ、実際乙女の仲間入りをする年齢で、私はこのあだ名が嫌で仕方無い気持ちが時々盛り上がっては消えていました。これは旧姓の名字の響きからもじられたものでしょうが、細枝のように痩せていて、色白というか、青白い私の外見にひっかけられたような気がして考え始めると、どうしてもその言葉にこだわってしまいました。ある時ついに「たくあん」と言うあだ名がとても嫌である、と思い詰めて担任のJ先生に相談に行きました。

そのとき、先生は時間を取って放課後の教室で、私の気持ちをきちんと受け止めてくださったとは確かに感じました。

けれど、あの時先生はそう涙で訴える私の中に、悲しみや、いじめられている痕跡やらが見えないことを見て取られたのだろうと思います。

しばらくの沈黙の後、先生の口から出た言葉は「ええやん!」でした。「たくあんは、みんなに好かれてるで!」と続けられました。その日はそれだけ。悩める乙女は肩すかしでしたが、長じるほど「ええやん」というおまじないは私の強い味方になってくれた気がします。

卒業の日に、先生は「たくあんと言うのは、噛めば噛むほど味が出る優れものや。」と、色紙に書いて渡してくださいました


精神神経科医 労働衛生コンサルタント  牧由美子

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