ゆみさんのメンタル・スケッチ

第1回 心の気圧

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2013年10月05日
第1回 心の気圧

はじめに、先日お亡くなりになりました、なだいなださんの書かれたものに、若いころから多くの励ましを受けた一読者として、心よりの感謝とご冥福をお祈り申し上げます。

私は縁あって臨床を通じて教職員の方がそれぞれの道筋で「心の低気圧」から抜け出す場面に出会いました。「低気圧」は、めずらしいことではありませんが、大きくなりすぎると強い風が吹き込み身動き取れなくなる、過ぎれば台風一過の青空が廻ってくることが知識としてあっても、雨戸を閉めることも傘を捨て避難することも出来なくなります。対応を助言してくれる気象予報士もいません。SOSを出せず、ほとんど自分の力で乗り切って行かざるを得なかった方も少なからずいらっしゃいますが、そんな場合でもやはり自分一人ではなく、なだいなださんのおっしゃる「こころ医者」に近い人との出会いがあるのだと、私自身を振り返り感じます。

私が医師になったのは30代後半です。大学ではコニュニケーションを専攻。卒業・結婚と、心の気圧など感じることもなく過ごしていました。

ところが24歳の時に、まじめで心優しい一つ違いの兄が急死したのをきっかけに、心の気圧低下をはっきりと感じました。小さな娘に笑顔を向けることに精いっぱいで、受診はしませんでした。「理不尽な別れは、誰にでも起きうる。前を向き頑張れ」と、うつ病の治療で急性期に避けたい「励ます」ことを自分自身で繰り返し、悪循環に陥りました。

その後「回復の過程で、しばし現状から離れることを考えられる段階」、と言うと聞こえはよいですが、恩師の勧めでアメリカの大学院でコミュニケーションを学ぶ機会を利用しました。我儘であると思いつつも周囲の理解を幸いに、一年で修士課程を終え帰国。大学の非常勤助手を始めました。その時、背中の子亀の面倒をみてくれる学生達に大いに助けられたのですが、「こんなに助けられているのに私はなぜ喪失したものばかり後ろ向きに見て反芻してしまうのか」という焦りが増しました。本当に厄介な心の低気圧ですね。

そんな折、動物と比較するコミュニケーション学に出会い、その視点に救われるものを感じ、働きながらその先生のいる大学院で勉強することをきめました。そこで「困難な状況で人間は、不確定な未来でなく、過去をよりどころにする生き延び方もある」という言葉に出会い、「後ろ向きは間違いだ」と、自分の現状を受け入れないで来たことが、低気圧の長い停滞を招いていたと気づき、すーっと風が外へ流れ出す変化を感じました。

これはどういう体験なのか具体的な形で整理したい、思っていると医学部試験日程が視野に飛び込んできました。娘と一緒で安心でしたが、そうそう思うようには行かぬ珍道中がはじまりました。次回お話させていただきます。

広報部より

「メンタル・スケッチ」は、今月号から長年教職員のメンタル対応に関わってこられた牧先生にご担当いただきます。

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