ゆみさんのメンタル・スケッチ

第32回 メンタル都市伝説

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2016年05月01日
第32回 メンタル都市伝説

「あなたは、病院で(学校で)仕事をしているのだから、分かるでしょう? こういうのは、どうしたらよいのかしら?」と話を向けられ、見込まれたからにはありがたく何か言わねば、しかしわからない、ということは時々ありますよね。

あれは、何年か前の春。知り合いと満開の桜の下で弁当を食べていた時でした。

「わたし、最近イライラが多くて。春だからかもね。それにしても××さんにはどうしても許せないことを言われたことがあって、それ以降挨拶も苦しい。上司の△△さんは価値観がおかしすぎる異星人。○○さんは行動がいちいちわたしのストレス源!こういう『苦手な人のストレス』は増えてくると精神衛生上良くないよね。どこかに良い薬があったらねー。飲んだり、注射したりは怖いけれど、胸の辺に塗るやつとか。」

「ええ。本当にそうね。もっともそんな薬あったら、私がとっくにべとべとに塗ってるけどね。使いすぎるとこの世の人の様ではなくなるっていう副作用ありそうだけど。」

「ちょっとぉ。も少しまじめに答えてよ。」

「わかった。じゃあ、つまりその人のことを考えると内的に強い葛藤が引き起こされ、外的にはアドレナリンの分泌亢進が自覚されるっていうこと?」

「…。」

ちょうどよいものって、なかなかないもの。病気ではなく(病気の場合はむろん違い、決まりごとが沢山用意できますが)むしろ健康な部類の人から、この手のストレスの相談をされても、私なぞが、ちょうどよい答えを持ち合わせているはずもありません。

ただ、この日は知り合いをがっかりさせまいと、苦し紛れに思いついた話をしました。根拠は分かりません(どなたかの学説だったりしたら恥ずかしいけれど)。

「勘弁してほしい人や、(恨みまではいかなくても)憎々しく思っている人が何人かいるのは仕方ない。けれど、そういう人が今何人います?3人なら3人。5人なら5人。この世では、自分がそう思っている人数と同じだけの人数の人たちから、自分がそう思われている、という(事実がある)らしいのよ。」

知り合いは、不思議と納得顔で、髪に桜の花びらをのっけたまま軽い足取りで帰っていきました。

これに味を占めたので、これ以降多用してみたのですが、「あ、そうか」と我にかえったり、妙に納得されたり、人によっては“ストンと憑き物が落ちたような顔”になって、とにもかくにもいい感じに事態が落ち着くことが多いのです。

ちなみに、(親に対して遠慮のかけらもない)わが娘でさえ、この話をすると「そうだったんだあ。」と素直にうなずき、静かに遠くを見たんですから。

精神神経科医 労働衛生コンサルタント  牧由美子

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