ゆみさんのメンタル・スケッチ

第43回 読んどく

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2017年05月01日

ただいま、引っ越し準備の真っ最中です。

昨年から、高齢の母の生活が、いよいよ一人ではきつくなってきたと感じはじめました。それは「そんなに泊まりに来なくても私は全く大丈夫だから!」と母が言うごとに強まる感覚でした。今までの私の家と実家は、一時間半弱の距離でしたので、何とか行ったり来たり、泊まったり泊まらなかったりで手伝ってきましたが今が同居の時期か、と決意し仕事も数か月かけて調整しました。実家に入りきらない荷物は近くに小さな部屋を借りよう。現在の私の家は引き払って貸せば、その費用はでるはず。それでも溢れた荷物はすべて処分する、ということになったわけです。

昨年夏に、娘夫婦が片付けを手伝いにきてくれたのですが、(押入れから編みかけの黄色いセーターを娘が発掘した、あの夏のこと。)今回は今より狭いところへ移るのですから、整理整頓レベルでは済まない本や雑誌、資料の山が相手です。

個人名が入っているものは、20年分くらい、レンタル・シュレッダーを利用すれば何とかなるでしょう。仕事関連のものは、最優先。判断に迷うものは残す!と決めました。が、捨てるべきか悩むのものが、『溜めないで捨てよう!』という分野の本や雑誌でした。

「本当の断捨離とは」、「ものをもたない生き方」、「持たない生活を目指し捨てる本」、「片づけられないあなたを今度こそ変える方法」、「働く女性の片付け、収納」などなど出るは出るは、30冊は優に超えていました。

そして、恐ろしいことに、そのどれもを、私は一度は読んでいて、あちこち赤線まで引いてあるのです。

その数は、破れるまで繰り返し読んできた、大好きな花や園芸の本と同じくらいの数にのぼることがわかりました。

先日、新聞のコラムに日本語の『積読(つんどく)』という言葉のニュアンスが翻訳しにくい、と書かれていたのを思い出しましたが、私の場合は繰り返し読んだりしている、けれど感心したり憧れたりしつつも実行しないわけですから、さしずめ『読んどく』でしょうか。

「よくここまで、『捨てよ!』と書いた本を捨てずに、『軽々しく買うな!』と書いた本をさらに買い足し、読んで来たねー。」と、自身も海外に転勤で準備が忙しい中、手伝いに来てくれた娘が、埃で時々むせながらつぶやきました。

私も手を休めて本の山を仰ぎ見ながらつぶやきました。

「確かにね。けれどなかなか難しいところなのよ、これは。『ものを持ちたい』というのも煩悩なら、『何者(もの)にも束縛されず身軽に生きたい』というのもまた煩悩の一つだと思うの。両方ともほどほどに、というところが難しいと深く知った春だわ。」

「よくわからないけど、お母さんが誇り(埃)高き人ってのは分かったよ。」

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