ゆみさんのメンタル・スケッチ

第3回 信じて任せてもらうこと

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2013年12月02日
第3回 信じて任せてもらうこと

先回、心の気圧がどうしても上がってきてくれなかったときに、周囲に気を使っていただき援助してもらったり励まされたりしたことが、逆に焦りにつながり、さらに落ち込む、という時期があったことをお話しいたしました。

現在、そのような状態にある方に申し上げたいのは、いつかそこから抜けられるときが来る、ということです。

心の気圧が上がってくると、「期待されている」というプレッシャーを感じるのではなく「信じて任せてもらった、もらっている」とうれしく感じることが出来るようになります。そして、それを素直に自分のすすむ力にできる時機は訪れてくれます。

一番案じていた「解剖」の授業も何とか乗り切りましたが、途中でどうしても学費のめどが立たなくなった時期がありました。いろいろ考えた末に、ついに「大人として学費資金計画のめどを立てて入学したのに、それが自分で出していけないのでは致し方ありません。見通し甘く、ご迷惑をおかけしました」と退学覚悟で教授の研究室に行きました。するとその教授は、「来期にアメリカの医科大学への留学試験がある。受かればあちらの大学からも奨学金が出る。そもそも、なにか、君が医者にならないというのは想像できないんだよね」と静かに退学願いを返されました。

実はその試験のことを知ってはいたのですが、家事・育児・通学と現実に直面して疲れが出ていた時だったのか、「挑戦してみることはみるが、おそらく受からないから、それは計算に入れない」と、はなから決めてかかっていたのです。先生の言葉は、それを、今一度考え直すきっかけとなりました。結果、その奨学金を得て5年生から6年生にかけて留学できたのは、経済危機から抜ける道を得たことだけでなく、それ以上に大きな意味を持つことになりました。

医学部附属病院でOncology(腫瘍部門)を臨床研修していた時、われわれ医学部の研修生もがん治療の入院患者さんの担当になりました。告知が普通であるアメリカでは、再発の有無の検査結果も患者さんに隠さず報告するのが基本です。時には「脳への転移が見つかった」など、患者さんにとって辛い結果をお知らせしなくてはならない場面もあります。その先生は、脳転移、骨転移など、かなりその後が難しいことを患者さんに伝えに行くときは、じっとカルテを開いたまま壁にむかって15分くらい、ほとんど瞑想のように動かずに何かを考えられて、それからご自身でゆっくりと病室へむかわれていました。

そんな中、担当医(医学部の先生でもある)は、私を呼び出し、病室へ検査結果の説明に行け、と指示されました。

他の状況ならいざ知らず、がんの転移と向き合っておられる患者さんに、言い方の微妙なニュアンスで傷つけてしまう恐れもあるわけです。比較的伝えやすい、good newsのときを選んでくださっていた、とはいえ、今から考えると、文化も違う国からの、英語の発音もうまくない留学生であり、まだ信頼に足るようなことを何も見せていない私を、そこまで信頼して一人で病室に行かせてくださったものだ、と思います。

その後も、「信頼してもらった」という実感、自分を育ててくれた場面が浮かびます。

「うつの回復前では、『期待』をプレッシャーに感じるが、『信頼される』ということは、期待とは違う」、また仕事の中でも、いつも「信頼して疑わない。任せる」というわけにいかないのが現実。しかし、出来るかぎりそうありたいと願っています。

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