ゆみさんのメンタル・スケッチ

【拡大版】私たちができること 身近な労安 ?あなたのひと言、大きな励まし

精神神経科医 労働衛生コンサルタント 牧由美子
2015年11月01日
【拡大版】私たちができること 身近な労安 ?あなたのひと言、大きな励まし

労働安全衛生(以下、労安)が大事だと認識はしながら、とりくむのを躊躇したり、難しいという印象を持っている人も多いのではないでしょうか。おそらく、労安にとりくむこと自体が、多忙な現状により一層の負荷になるだけ、という気持ちを持っているからだと思われます。

しかし、OECDの調査で日本の教員が世界一長時間労働であることが判明し、また、文部科学省の調査では、持ち帰り仕事なども含め、教員は過労死ラインを超えて働いているような状況もあります。日本教職員組合でも、超勤を減らすことを目的として、教職員の労働時間管理の導入、時間外勤務手当化、労安体制の確立をめざしています。

そのような制度的な問題解消も大事ですが、制度改革には多くの時間と予算がかかります。そこで、ここでは、具体的な「一人ひとりができること」事例とそのポイントを「ゆみさんのメンタル・スケッチ」でおなじみの牧由美子先生に紹介してもらいます。


【事例】うつ病 30歳代・女性・小学校教員

[ 経過 ]

数か月前に現任校へ異動してきた。健康な体格、声も大きく、頼りがいあると保護者からも信頼を受けていた(ただ雑な印象と、良く言わない保護者もいた)。異動後ほどなくしてクラス内が荒れ、「喧嘩を止めるときに児童の肩を強く押した、言葉の暴力もある」とうわさが広まり、「クラスをまとめられない担任!」と一部保護者が迫った。

教員生活の中で初めての経験だった。当初は『乱暴をした子の感情の受け止め、注意の仕方に問題があった』と、自責感が強かったが、事実を良く調べずに『担任交代!』と叫ぶ一部保護者に怒りにも似た感情が沸いてきた。1か月近く熟眠できず、疲労感で横になることが増え、血圧が常に高くなった。

それでも勤務していたが、児童のちょっとした言葉で動揺し、声がひどく大きくなることと、全く出なくなることが繰り返された。体重も4キロ落ちた。好きだったスポーツの番組も見なくなった。

職員室では急にイライラするところをみられ、「ああいった性格の延長で問題が起きている」と考えた一部同僚からは援助が得られなかった。さらに、批判めいたことも言われ、心理的に孤立に近い状態となっていった。

この頃「前任校で多少のことがあっても、前向きに来られた話を聞いてきたし、家庭では病気がちの義理の両親を温かく面倒をみるなどしておられ、“もともと情緒不安定にイライラする性格だった”というのは当たらないのでは?」と、同僚の中に冷静に見守りたい、という声も出てきたが、本人には届かなかった。

ついに朝出勤しようとすると足が動かなくなり受診、うつ病と診断され自宅休業に入った。薬物療法で気持ちが落ち着いてくるにしたがい、現実に起きたことの振り返りがすすみ、「保護者との関係もありましたが、同僚から孤立していった部分が一番こたえました。が、前任校や現任校の同僚の理解、支援が素直に入ってくるようになった今は[周囲の悪意]と自分で勝手に思い込んでさらに気持ちをかたくなにして受診を遅らせた部分が見えてきました。今後こういった気持ちの悪循環を自らの課題としていきます」と認知的にも変化し治療が進んだ。約1年の休職とリハビリを経て復職された。

[ 解説 ]

精神症状のイライラ、焦りが前景に出ているが、自信の喪失が背景である。睡眠障害、食欲減退、興味の消失、高血圧も現れ、軽症ではないところまできて受診をされた。同僚から孤立していたと本人は認知し休職に及んだが、同僚の理解、支援を受け復職に至った。


【事例】うつ病とおもわれ休職したが、睡眠時無呼吸症候群と判明 50歳代・男性・高校教員

[ 経過 ]

以前より「迅速な動きをするタイプではなかった」が、授業は人気があり、同僚ともうちとけていた。異動後1?2年は目立ったことはなかった。

しかしこの数か月、授業を自習にして机でぼんやりしていることが何度かあり、保護者から「大丈夫か」との声が上がった。

「気が緩んで体調が悪いのか、すぐ治します」という本人の言葉に、周囲も、本人に負担感を持たせない配慮をしつつ校務分掌や担当行事の肩代わりを分担してやってきた。しかし重要な職員会議でも、皆の前でうとうと居眠りをする姿を続けられると、援助には限界があるとの声が上がった。ある同僚が「正直どこまで協力すれば良いのか、周りが疲れてます。このままでは皆の不信感がつのり、○○先生自身も辛い立場になるのでは? 病気(うつ病など)であるなら休養するなど治してほしい」と校長に受診を勧めてくれるよう話した。

朝起きるのがつらい、疲れるという話から、同僚も管理職もうつ病を疑い始めたが、休まず勤務している本人にはっきりと話を持っていく者はいなかった。がその時、若い同僚の一人が「職員会議中、寝られるのは、我々も大変気になってきたのは事実です。でもこの段階で、気の緩みであるとか、原因を決めつけてしまうのはどうでしょう?まず原因をはっきりされてください。そのための協力は皆もしたいと思っています」と本人に直接話した。

これをきっかけに「気の緩みは自力で克服すべきだと思ってきた。年若い同僚が皆頑張っている中、どう思われているのかを考えると面目なくて、
情けなくて。でも、はっきりと言ってくれたことは大変感謝している」と同僚に胸の内を語り、まもなく心療内科を受診。「抑うつ状態」との診断で8月中の1か月、自宅療養の診断書が出た。

しかし、家で休息していても日中の眠気だるさが改善せず、主治医の勧めで、睡眠外来を受診。

精査の結果、睡眠時無呼吸症候群と判明。夏休みを利用して短い入院をし、治療器具・薬を調整したところ昼間の眠気は著明に改善し、意欲的な気分も戻ってきた。9月以後の長期休暇を取らずに担任にも復帰した。

[ 解説 ]

心療内科受診時、校長が付き添い、「今の状態を同僚も皆が心配していること、過去の学校での働きぶりは誠意のあるものだったこと」などの管理職の説明が本人同席のもとでなされた。そのことからも主治医の早い時期の睡眠外来紹介に結びついたといえる。

管理職、同僚のサポートが適切に機能した事例。

ゆみさんから

大切なのは、一人だけで抱え込ませない、孤立させないことです。燃え尽きてしまいそうな人には、必ず前兆として心身の「疲れ」が出ているはずです。普段「疲れた」と言わないような人が「疲れた」と口にしたら、翌日に「疲れ、取れましたか?」と一声かけてあげる。そうしたコミュニケーションが自然に取れる、職場づくりを進めていきましょう。


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