点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

「新規」を恐れぬ柔軟さこそ

2009年04月04日
「新規」を恐れぬ柔軟さこそ

 本田由紀(東京大学大学院准教授)  2009年4月1日

冬のはじめ、ある労働関係の集会があった。私はその集会の主張に賛同する立場として、壇上の隅に座っていた。壇上からは会場全体がよく見渡せた。その会場は野外で、全国から参加した労組の組合旗が、そこかしこにはためいていた。会場の前方に、ひときわ年齢層の若い一団が、体育座りでこちらを見上げていた。その一団は私が以前から知っていたNPOで、メンバーは大半が若者であり、若年労働に関する調査やイベントを積極的に繰り広げているグループだった。彼らがこうした集会に参加していることが、私にはやや意外であったが、でも当然かもしれないと思い直した。集会では、労働者や政党、有識者、弁護士などの代表が次々に発言し、続いていくつかの歌がうたわれて、最後はこぶしを突き上げながらの「がんばろー!」というシュプレヒコールの連呼で締めくくられた。続いてデモ行進が行われたが、風邪を引いていた私は恐縮に思いながらもデモには出ずに帰った。

後日、私はその若者らのNPOのリーダーと雑談する機会があった。「あなたたち、あそこにいたね」と私が言うと、彼は「いやー、連れて行ったメンバーたちが、あのあと“ドン引き”で、たいへんだったんすよ」と答えた。いわく、そのNPOで活動している若い人たちは、あの集会の雰囲気?旗、歌、シュプレヒコールなどを含む?に対して、強い嫌悪を感じていたのだと。あのように伝統的な「労働運動」の「ダサさ」や集団主義的なにおいが、若者にとってはアレルギーの対象であるようなのだ。

しかしそのリーダーの彼は、続けてこう言った。「『連帯』とか言うと“ドン引き”するコたちも、『ボランティア』って言うとついてきてくれます。これは『労働ボランティア』ですって言うと抵抗なく関心を持ってくれるので、それからだんだんと雇用や法律の問題について説明していくと、ちゃんとわかってくれて熱心に活動してくれます。」

私はその話を、とても興味深く聞いていた。若い人たちは、党派的なイデオロギーや上意下達の「運動」には忌避感を持っている。彼らは個々人の自由や自発性、そしてセンスあるふるまい方をきわめて重視している。同時に彼らは、他者や社会に関わりたい、何か役立てることをしたいという思いもまた、しっかりと持っている。それらのどれも捨てないために、彼ら自身が模索している。このような若者の感じ方に応え得るような、新しい「運動」や「組織」が必要だ。凝り固まった旧い頭を揉みほぐし、今までにないやり方も怖れず取り入れていく柔軟さが。

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