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点鐘 [連載コラム]

議論なき「大改革」


レオナード・ショッパは1991年の著書『日本の教育政策過程』(邦訳は2005年に三省堂より刊行)にお
いて、日本の70?80年代の教育改革がなぜ失敗し全体としては「現状維持」に留まったかを分析している。ショッパはその原因を、教育政策決定が教育関係
者だけの狭隘な空間で行われていること、改革を求める強い国民的支持の不足、革新野党による現状維持の積極的な擁護などに求めている。文部官僚や自民党文
教族による保守主義と、改革への強い「外圧」の欠如は、中教審「46答申」や臨教審による壮大な改革提言をほぼ骨抜きにする結果となったとショッパは分析
している。
このようなショッパの分析は、現在にどれほど当てはまるのか。安倍政権下では、教育基本法の改訂に続き、教
育再生会議を実動部隊として様々な改革が矢継ぎ早に進められている。教育再生会議の第1次報告に基づく教育3法改正案の国会提出を可能にするため、中教審
は約1ヶ月で審議を終えるという異例の事態となった。この改正案には教員免許更新制や各学校種の目的の見直しなど学校教育制度の根幹に関わる改革が含まれ
ているにも関わらず、それらに対する強い批判や抵抗は目立っていない。教育再生会議第1次報告には、今回の法改正案に盛り込まれたもの以外にも多数の提案
が含まれており、その後も大学・大学院教育や家庭教育に関して大胆な意見や提言が続出している。第2次報告および最終報告まで合わせれば、現下の教育現場
を土台から揺るがしかねない「改革」が、大きな国民的議論を経ないままにみるみる実現されてゆくことになりかねない。
こうした状況は、ショッパの分析した70?80年代とは相当に異なり、もはや日本の教育に「現状維持」の力
学がかつてほど働いていないことを意味している。革新野党勢力が明確に弱まり、学校教育に対する一般世論や他省庁からの厳しい見方が強まったことにより、
文教族や文部科学省の保守主義は後退戦を余儀なくされている。そうした中で、学校教育は政治や経済など他の諸領域の意図でもみくちゃにされようとしてい
る。
これまでの「現状維持」に問題がなかったわけではない。その改革が必要だとしても、改革には教育という領域
固有の論理や使命が貫かれる必要がある。教育外部からの圧力に抗しつつもそれとの調整を図り、内部からの改革を推し進めるという困難な課題に、現下の日本
の教育は直面している。