点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

「閉塞の時代」

2010年08月02日
「閉塞の時代」
 奥井禮喜(月刊ライフビジョン発行人)  2010年8月2日

昨今新聞をみると「閉塞の時代」という言葉をよく見かける。閉じ塞ぐのか、閉ざされ塞がるのかどちらにせよ、あまり喜ばしい状況ではない。理屈をいえば、いつの時代も多事多難である。庶民各位におかれても日々是好日の幸福を噛み締めるようなことが多いわけはない。いわば大事件、小事件の谷間で「万物は流転す」の含蓄を味わいつつ生きるのが普通だ。時代は、同時代を生きる人々が作っているのだから、「閉塞の時代」とは「人々が」閉塞しているという意味になる。違う表現をすれば、皆様「元気がない」という辺りであろうか。

今年の新入社員の八五%が、デートを予定していても残業を優先すると回答したという調査が報じられた。学窓を巣立って、一刻も早く先輩たちに追いつき、追い越したいという気概であるか。見上げたものだと、単純に納得できないのが私の感想である。私であれば、よほどの緊急性がない限り絶対にデート優先なのである。

そもそも昨今の残業ときたら緊急性とかなんかではなく、長時間化、恒常化している。新入社員諸君が、職場から放り出されるのがおっかないから、じっと我慢して仕事優先というのであれば、これは「ようがんばっているなあ、感心だ」などとは言えない。なんのことはない、新入社員のときから面従腹背の高等技術を身につけ、上下左右に対するYes manになっていることのほうがよほど気がかりである。

その一方では、ワーク・ライフ・バランスなどのご高説をたまわる。はたまた「イクメン」なんてお節介!も賑わう。それが本気であれば、もっと若い諸君が人生を謳歌するように配慮せにゃならない。デートより仕事なんていう諸君が、「イクメン」になどなるものだろうか。

「元気とは乱調である」。現状に唯々諾々従うだけであれば確実に元気喪失してしまう。私らの青年時代、デートする相手のいない連中はデート優先する青年に対して羨望半分で「こんちくしょう」くらいのことは言ったが、「残業はデートに優先する」なんておじさん臭いことは言わなかった。建前と本音が乖離する社会風土こそが閉塞の本尊ではないか。ならば、同時代人には、たまには井伏鱒二『山椒魚』でも読んで、「居直り」の意義を味わってもらいたいものだ。

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