点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

そこにある希望

2012年02月01日
そこにある希望
 本田由紀(東京大学大学院教授)  2012年2月1日

ここのところ、何校かの高校で生徒たちと直接話す機会が続いた。訪れた高校は、伝統的な普通科から専門学科、単位制や通信制と制度形態も多様であり、県内トップに近い高校からその対極まで含まれていた。でもどんな高校でも、生徒たちは、前に進もうとする意志を強い目で語ってくれた。

ある新設校の男子生徒は言った。「ここは新しい学校だから、僕たちが新しく伝統をつくっていける。今の学校の現状は何だか中途半端だ。もっと多くの生徒をまきこんで活性化していきたいんです。そのためには、もっと生徒と先生が話し合える場を作ってほしい。」

別の高校では、女子生徒が次のように言っていた。「制服の決まりを何とかしたいんです。夏はすごく暑いのに、ポロシャツはだめでワイシャツじゃなきゃいけない。でもそれは不衛生だし気持ちも悪い。逆に冬は校舎がとても寒いんですけど、男子は学生服の中にしか何か着ちゃいけないので、セーターとか着たくてもきついんです。あ、でもこのことは学校の先生たちに伝えないでください。今、自分たちで運動してルールを変えていこうとしてるので。」

また別の高校では、中庭の植木に生徒の手で電飾が巻かれていた。いわく、「12月になっても就職先が決まらない人もいるので、きれいにクリスマスツリーみたいにして元気づけたいと思って。」

彼らの目は、学校現場の問題をも捉えている。ある女子生徒は言った。「この学校では先生が生徒を信頼してくれてない感じがする。頭ごなしにきつく言われることが多い。先生によって勉強の評価や生活指導の厳しさがまちまちだったりもします。」

批判的な視線は進学校の生徒の中にもある。「先生たちは私たちが成績を上げることを第一に考えてる。学校全体がその目的で作られてる。私も、いい成績をとって都会の大学に入って、そこで就職するんだろうなって何となく思ってました。だから、勉強するのは自分のためだけみたいに考えてました。でも、何のために学ぶのか、社会や地域に自分が何ができるのかを、考えなくちゃいけないと思い始めてます。」

これらの高校生たちの言葉に、私が付け加えて解説すべきことは何もない。彼らはしっかりと感じ、考え、行動し、生きていこうとしている。その意見をおさえこむのでも彼らにおもねるのでもなく、きちんと向き合うことが、大人にとって最低限求められる姿勢だろう。私たち大人は、それができているか。慌ただしい日々の中で、ごまかしやずるさに流れていないか。大震災を経て随所にひび割れの明らかなこの社会を変えてゆく意気は、若い世代の中にははっきりと息づいており、むしろ大人の側が追い付けていないのではないか。新しい世代とともに、今何がこの社会に必要なのかを根底から考えていきたい。そこにしか希望はない。

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