点鐘 [連載コラム]

写真
点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

現場の実態を矩(のり)として

2013年06月03日
現場の実態を矩(のり)として
 本田由紀(東京大学大学院教授)  2013年6月1日

ベネッセ教育研究開発センターが朝日新聞社と共同で、全国の公立の小学2年生、小学5年生、中学2年生を子どもにもつ保護者6、831名に対し、’12年11月~’13年1月に実施した調査の結果の一部が先日公開された。この調査は’04年と’08年にも実施されており、過去8年間の保護者の意識の変化を把握することができる。

調査結果の中で注目されるのは、「お子さまが通われている学校に満足していますか」という質問に対し、「満足している」と回答した比率(「とても満足」と「まあ満足」の合計)は、’04年調査の73・1%から、’12年調査では80・7%となり、7.6ポイント増加しているということである。ベネッセ教育研究開発センター主任研究員の木村治生氏の分析によれば、学校への総合満足度を高めている個別の要素として重要なのは、①先生たちの教育熱心さ、②教科の学習指導、③学ぶ意欲を高めること、④学校の教育方針や指導状況を保護者に伝えること、の4つの側面であり、これらに対する満足度も’04年から’12年度までに上昇している。

http://benesse.jp/berd/center/open/report/hogosya_ishiki/2013/

この結果について木村氏は、「このことは、学校や教員がさまざまな努力をしてきた結果だと受け止めたい。この間、学習指導要領の改訂によって子どもたちに指導すべき内容が増えた。それに応じて学校現場に資源が投下されたかと言えば、必ずしもそうではない。個々の学校や教員のがんばりや説明責任を果たす姿勢が、保護者に評価されたのだろう」と述べている。

また、NHK放送文化研究所が’12年夏に実施した「中学生・高校生の生活と意識調査」においても、’82年、’87年、’92年、’02年に実施された過去の調査を通じて「学校は楽しい」と答える比率が一貫して増加し、’12年では「とても楽しい」が半数強、「まあ楽しい」を合わせると中高生ともに9割以上に達する。そして「担任の先生は自分のことをわかってくれている」と思う比率は、中高生いずれも約85%を占めている。

公教育はいじめや体罰などの事件のたびに批判にさらされ、政治的にもしめつけが強まっているが、その陰で実は多くの教師たちの懸命な努力により、生徒や保護者からの学校への評価は総じて高まっているということを、これらの調査結果は伝えてくれる。

しかし、それが教師のいっそうの疲弊を招いているおそれ、そして大半は「楽しい」生徒たちの中で疎外されている一部の生徒たちが存在すること、これらもまた忘れてはならない。あるいは、OECDのPISA調査データを用いて舞田敏彦氏が行った国際比較分析からは、日本が「教師の言うことを聞く生徒は多いが、その一方で、教師と良好な関係にある生徒は(引用者注:他国と比べて相対的に)少ない」という特徴をもつことが指摘されている(http://tmaita77.blogspot.jp/2013/04/blog‐post_11.html)。こうした日本の教育の問題の多くは、公的財源から投入される費用が抑制され続けてきたことを淵源とする。

これら以外にも、教育現場の実態を把握するためのデータは、日本でも蓄積されてきている。政策立案者は思い込みや思いつきで教育現場を揺さぶるのではなく、エビデンスに基づいて実態を明らかにし、さらなる改善や課題への実効ある対処を進めてゆくことを矩としてもらいたい。

pagetop