点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

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2014年12月01日
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 伊藤宏一(千葉商科大学人間社会学部教授)   2014年12月1日

先日、藤原歌劇団80周年記念公演の「ラ・ボエーム」を見に行った。1830年代末パリのカルチェラタンに集う、若きボヘミアンたちの暮らしは、屋根裏部屋をシェアし、パンとボルドーをシェアし、暖を取ることもシェアしていた。

この時代にも、若者にはシェアリングが生活の必須事項だったのだ。

時代は移って、今日の若者にも、私的に所有することから離れ、「独り占めしないで、みんなでシェアしようね」という価値観に移る姿がみてとれる。

私有から共有の流れは、百科事典からウィキペディアへ、著作権からクリエイティブ・コモンズへ、テレビからYouTubeへ、CDから音楽配信へ、自動車や自転車の所有からシェアリングへ、と大きな流れになっている。インターネット上で寄付や融資をpeer to peerで行うクラウドファンディングはお金のシェアだ。自分の家の部屋を時間貸しするAirbnbや自分の自動車を時間貸しするBuzzcar、そして相乗りをすすめるCarpoolingなど、ICT(情報通信技術)をベースにシェアリングエコノミーつまり〈共有経済〉が国際的に台頭してきており、それを最もいち早く取り入れているのが、先進国の若者たちだ。

我が国には古くから「山川薮沢の利は公私これを共にす」(養老律令757年)という考えがあった。公でも私でもなく〈共〉の領域、つまりシェアの領域が里山や奥山そして海などの「入会地」だった。入会地は英語で言えばコモンズで、コモンズは、占有(オキュパイ)せず、共有(シェア)して使う場所なのだ。資源の共有こそ、シェアリングのベースにある考えに他ならない。

ヨーロッパでも古代ローマでは、公園や道路など公共の物を「レ・パブリカ」(公共物)と呼び、空気や水、自然の動物、文化、言語、一般知識などを「レ・コミュニス」(共有物)と区別しており、15世紀まではこれが常識だったという。イギリスでコモンズとしての放牧地が囲い込まれて私有地化するのは18世紀になってからであり、私有欲望がコモンズを崩壊させる「コモンズの悲劇」をギャレット・ハーディンが書いたのは1968年だった。コモンズやシェアはDNAとして人間の心に深く刻まれているのだ。だからこそ、それを呼び起こすシェアリングエコノミーは無理がなく普遍性がある。そしてIOT(Internet of Things)つまりモノのインターネットへの進展により、それが地球規模に広がる可能性が出てきたのだろう。

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