点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

全く及ばないアベノミクスの恩恵

2015年02月01日
全く及ばないアベノミクスの恩恵
 
 本田由紀(東京大学大学院教授)   2015年2月1日

2015年の年明けに、都内某所での越年越冬活動にボランティアとして参加した。これは行政機関が閉庁し日雇い等の仕事もなくなる年末から年始にかけて、困窮する人々に対して炊き出しや相談などを行う支援活動である。高校生の娘と中学生の息子も誘って一緒に行った。

活動場所の公園に、開始時間より少し早く着くと、すでに一隅に鍼灸のテントが設けられており、ほどなくブルーシートを敷いてのマッサージのサービスが始まった。おそらく野宿をされているであろう人たちも三々五々集まってくる。中には猫を抱っこしている人もいて、猫も人も暖かそうである。

受付で親子三人のボランティア登録をし、まずコーヒーの係になる。少し甘くした濃い熱いコーヒーを紙コップでどんどん配ってゆく。「いかがですかー」と声を出していると、以前にフリーマーケットに出店したときのことが思い出される。二杯、三杯とお代わりをする人が大半で、紳士然とした服装の方や若い方も列に並んでいる。別のコーナーでは衣類の配布も行われている。

一段落すると、スタッフの方がボランティアを連れて公園内を案内し、いろいろ説明してくださる。使えないように封鎖された植え込みや通路を目にして、気持ちまで寒くなる。

公園ツアーが終わったころ、小さいトラックが到着して、急に忙しくなる。トラックから、米飯や汁物や道具の入った大きなケースをいくつも下ろし、炊き出しの場所に運ぶ。今日の献立は塩鮭と野菜がたっぷり入ったぶっかけ飯。プラスチックの碗にご飯をつぐ係、それを並ぶ人たちに次々に渡す係、ご飯の上に汁物をかける係などが、スタッフによっててきぱきと決められ、娘と息子はご飯の、私は汁物の担当になる。大きな入れ物から、湯気の立つ汁をひしゃくですくい、差し出された碗にこぼさないようにかける。「汁はすくなめで」「大盛りで」という希望にはできるだけ答える。列が途切れた頃に、スタッフの方が声をかけてくれて、私も子どもたちもご馳走になる。鮭の出汁をたっぷり吸いこんだ野菜の汁とご飯は、とてもおいしかった。

余ったご飯はパックに詰めてふりかけをかけてお弁当にする。全て終わると、手早く片付けて公園中を懐中電灯を携えて掃除する。最後の振り返りでは、スタッフの代表の方から、アベノミクスの恩恵はここには全く及んでないという言葉があった。

こうした活動を続けられている方たちを、心から尊敬する。またお手伝いに来ます、と心の中でつぶやいて、公園をあとにした。

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