点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

思考停止の危険性

2015年05月01日
思考停止の危険性
 
 本田由紀(東京大学大学院教授)   2015年5月1日

私と同じ教育社会学を専門とする、内田良さんという若くて元気な研究者がいる。名古屋大学の准教授というお固い肩書と、金髪で細面のハンサムという外見とのギャップがまず素敵である。

その内田さんは、「ヤフー!ニュース」というインターネットサイトで、たくさんの署名記事(記事一覧はhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/)を書かれている。その内容は、組体操事故、体罰、「2分の1成人式」、教員の部活動負担など、学校内で発生する様々な問題を、データやエビデンスに基づいて指摘し、その改善を訴えかけるというものである。学校内部で当然のように行われている場合も多い慣行に疑念を投げかけ、それらがいかに大きな弊害を含むかを議論の俎上に載せる内田さんの記事に対して、もしかすると教員の方々の中には反感を抱く方もいるかもしれない。あるいは、そんな些末なことはどうでもいいのではないかと思う方もいるかもしれない。しかし私は、内田さんの言論活動を支持し応援したい。

たとえば組体操事故に関しては、運動会における近年の組体操がその高さを競う方向にどんどんエスカレートしており、崩れた場合には子どもの生涯にわたって重大な障害を残すような事故にもなりかねないことが危機感をもって指摘されている。また「2分の1成人式」については、それが実父と実母が揃っている幸せな「標準家庭」を前提としており、そうではない家庭の子どもや保護者にとってはひたすら耐えるだけの場になっていることが記事では描かれている。組体操も「2分の1成人式」も、学習指導要領に記載されているわけではないのに、子どもや保護者に「感動」を呼ぶイベントとして、いつの間にか学校に普及したものである。しかしその「感動」は、同時に、無謀なリスクや多様性の排除を含みつつ、その場にいる全員に同調を強いるものにもなりかねない。これらの事例は、教育現場にそのような危険性への鈍感さが蔓延していることの表れかもしれないのである。そうであるからには、看過することはできない。

他方で、特に中学校や高校の教員の方々に多くの共感を呼ぶと思われるのは、部活動顧問の負担の大きさに関する内田さんの指摘である。部活動は、教育課程や校務分掌として制度的に位置付けられていないため、その顧問は教員にとって義務ではなく、少額の手当が支給されるのみである。それにもかかわらず、平日の放課後や週末に非常に長い時間を奪われ、教員にとってバーンアウトの大きな原因にもなっている。

慣例だから、とか、善いことだから、といった思考停止は、学校にかかわる全ての人々にとって非常に危険である。それを脱するために、ぜひ内田さんの記事を読んでいただきたい。

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