点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

支えになるために

2015年08月01日
支えになるために
 
 本田由紀(東京大学大学院教授)  2015年8月1日

初めて、授業で泣いた。

年度前半の大学院の授業では、14、5人の大学院生たちと、現代日本の教育・仕事・家族に関する、できるだけ新しい文献を読む。私が泣いたのは、「女性の貧困」に関する参考文献として、上間陽子「風俗業界で働く女性のネットワークと学校体験」(『教育社会学研究』第96集、2015年)という論文を紹介していたときだ。この論文では、沖縄の風俗業界で働く二人の女性のケースが詳しく報告されている。

その一人、18歳の京香さん(以下、すべて仮名)は、ヤンキー女子グループに属するアネゴ肌の女性である。キャバ嬢として働く間に京香さんは妊娠するが、相手の男性は中絶費用を用意できなかったため、京香さんはつわりをこらえつつ費用が貯まるまで働き、中絶手術を受ける。術後はしばらくお酒を飲んではいけないと看護師に言われていたが、客の応対をしてお酒を飲み、大出血する。

このような京香さんの支えになっているのが、ヤンキー女子グループのメンバーたちである。男性からの暴力や性を巡るトラブルに彼女たちはたびたび見舞われるが、その都度たがいに励ましあい、時には協力して男性に対抗しもする。京香さんの中絶手術後に、メンバーのミナミは「泣いてないか?」と電話で慰める。その後、今度はミナミが双子を妊娠し、産むことになる。その時にミナミは京香さんに、「(双子の)一人はお前の子どもだからよ、面倒みれ」と言い、京香さんは「はい、みます(笑い)」と答える。

この「はい、みます」で私は感情を抑えられなくなった。ぶっきらぼうな言い方の中に、中絶の悲しみ、出産の喜びを分かち合う彼女たちの結びつきが、切ないように表れていると感じられたからだ。

なお、このヤンキー女子グループの結束に一役かっているのは、彼女たちが通っていた中学校の一教師である。この教師は、彼女たちがタバコを吸っている体育館裏を何度も訪れ、「なんで学校から逃げるの?」と問いかけ、「楽しくないからさー」と答える彼女たちのために、職員室の隣の部屋に居場所を作り、勉強と称するおしゃべりに付き合いながら生育歴までききとり、彼女たちを学校につなぎとめる働きをする。

他方で、この論文におけるもう一人のケースである真奈さんは、学校でも孤立し、支えあうグループもなく、ほぼ男性だけを頼りにしてきたが、リスクからの防波堤は少ない。

ぎりぎりのところで踏みとどまって生きている、彼女たちのような存在が、沖縄だけでなく様々な地域で報告されている。彼女ら・彼らを断罪し排除するのでなく、支えになるためには、学校や教師はどうあるべきなのか。泣いている場合ではなく、しっかりと考えなければならない。

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