点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

民主主義 醜悪な事態から新しい動きへ

2015年11月01日
民主主義 醜悪な事態から新しい動きへ
 
 本田由紀(東京大学大学院教授)  2015年11月1日

2015年の夏は、異様な緊迫感に満ちていた。安全保障関連法案がその焦点であったことは言うまでもない。私自身、胸を締め付けられるような思いがずっと続いていたこの夏のことを、ここに記録しておきたい。

6月4日の衆議院憲法審査会で、参考人として招かれた3人の憲法学者全員が法案を違憲であると述べたにもかかわらず、法案は7月16日に衆院本会議を通過し、審議の場は参議院に移った。すでに6月には国会会期を95日間延長するという前代未聞の決定がなされており、「60日ルール」の発動可能性も含め、人々は固唾を呑んで国会の動向を見つめることになった。野党からの追及は厳しかったが、与党側はごまかしや意味不明の答弁を延々繰り返し、その間に首相自身が野次を飛ばしたり、また防衛省の内部資料が流出したりなどの曲折もあった。それらの報道に接するたびに怒りがこみあげた。

この間に、おびただしい数の団体が、反対声明を打ち出し、私もそのいくつかに賛同の署名をした。また、国会前では繰り返し反対集会が開かれ、それは全国にも広がった。私は、焼け付く喉に冷水を求めるように、時間を割くことができる限り集会やデモに足を運んだ。

目を見張ったのは、若者たちの動きである。大学生などから成るSEALDsの目覚ましい活動は、多くの人が知るところだろう。彼らに触発される形で、他の年齢層や立場のグループも次々に立ち上がった。その中には高校生たちのグループも複数あり、彼らが主導する大規模なデモや集会も開催された。デモや集会における若者たちのコールはリズミカルで心地よく、フライヤーやホームページのデザインも、彼ら自身の服装なども、現代的に洗練されていた。彼らは「個人が考え主張する」ことを重んじ、多様なメンバーが自分の言葉で練り上げた迫力のあるスピーチを繰り広げていた。

安保関連法案は、公聴会もそこそこに、委員会採決も明確になされないままに、9月19日の未明に参院本会議で可決された。しかし、可決前の野党側の意見陳述は、国会の外で若者たちが叫ぶコールに支えられた、力強いものだった。

あの夏の日々を書き記していると、苦々しい思いが蘇る。それとともに、この最悪の状況の中で何かが新しく生まれていると明確に感じたことも、改めて思い返される。季節が巡って、風が涼しくなり、やがて冷たくなり、また暖かくなっていく。これから醜悪な事態はいっそう深まるだろう。そしてそれに抗うための、新しい動きも次々に生み出されていくだろう。

「民主主義が終わったんなら始めるしかないじゃん」

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