点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

共有都市ソウル

2016年05月01日
共有都市ソウル
 
 伊藤宏一(千葉商科大学 人間社会学部教授)  2016年5月1日

4月初め、テレビで東京青山の異世代ホームシェアリング、つまり1人暮らしの高齢者の家で若者が共同生活をすることに興味を持った人の交流会をレポートしていた。シニアの参加者は「介護はあてにしないが防犯の面で一緒にいてくれると安心」、若者は「世代の違う人と一緒に住む喜びと苦労を体験できた気がする」と語っていた。実例では、大学受験に失敗し勉強のため岡山から東京にきた若者が食費や光熱費2万円のみを支払い、その代わり家事手伝いでシニアを助けている。シニアにとっては孤独な生活から抜け出し、空部屋を有効活用できる魅力がある。

さてこうしたシェアリングを都市の中核的政策として意識的かつ体系的に推進しているのがアジア随一のシェアリング・シティであるソウル市だ。ソウルは、2012年「ソウル特別市共有促進条例」を制定した。その具体化として、公共庁舎の会議室・講堂などで、平日の夕方以降や週末の空いている時間帯を地域住民と共有し、少ない予算で地域住民が手軽に様々な活動が行えるようにした。また「一つ屋根の下の世代共感」として異世代ホームシェアリングを進めた。自治区や共有企業での駐車場共有で市民に駐車場を広げ、共有書架を市内各所に設置し市民が本を持ち寄って交換して読書し、子ども服の交換情報を市民に提供したり、工具図書館を設けて工具を共有化し貸出しを行う。自家用車の共用利用事業で市内537カ所972台の車両を運営する。またソウル市の通信網および施設を共有し、無料の公共Wi‐Fiを拡大し、共有団体・共有企業を指定して、事業費を支援した。

その目的は、インターネットとスマートフォン利用というIT技術を土台に、建物を建てることなく少ないコストで市民に遊休資源を活用してもらい、新たな雇用と付加価値を生み出し、過剰消費による環境破壊を抑える。そして「共有は信頼に基づいた相互利益の経済が基盤になるため、共有文化が広まり、人々の交流が増え、断絶した関係の回復を図ることができるので、コミュニティの回復に寄与することができます。」としている。

個人や企業が持つ私有資本の共有資本化と同時に、自治体や国が持つ公有資本の共有資本化を推進すること、これにより地域で暮らす人々の中に信頼と優しさと支え合いという共有価値とシェア文化を培うこと、それを都市や国の政策の大きな柱の一つとして展開することが求められていると思う。

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