点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

立場の対称性と互換性

2007年08月10日
立場の対称性と互換性
本田 由紀(東京大学大学院准教授) 
2007年8月10日

先日、湯浅誠さんと対談する機会があった。湯浅さんは「NPO自立生活サポートセンター・もやい」の事務局
長として、ホームレス状態にある人の生活保護申請の支援や、アパート入居時の連帯保証人の提供など、幅広い活動を行っている。また、湯浅さんは「Asia
 Workers Network あうん」において、リサイクルショップなどを通じ、生活困窮者自身による「仕事起こし」を目指している。今年に入って
からは様々な市民団体や労働組合等を組織して「反‐貧困キャンペーン」を繰り広げ、マスメディア上でも多数の鋭い発言をされている。その湯浅さんは、私が
編者を務めた『若者の労働と生活世界』(大月書店)に、「若年ホームレス」という章を共著で寄稿してくれている。この本の刊行記念のトークセッションで、
私は湯浅さんとお話しする機会を得たのだ。

湯浅さんは、貧困状態にある人々は、企業福祉、家族福祉、社会福祉、教育、人間関係のいずれからも排除さ
れ、あらゆる「溜め」(余裕のようなもの)を失っていると述べた。それに対して私は、排除の度合いは人により多様だが、湯浅さんはどの範囲の人々を“救済
”の対象と考えているか、と質問した。湯浅さんはそれに答える前に、「まず用語についてひとこと断っておきたい」と言われた。「僕はお手伝いという言葉は
使いますが、“救済”という言葉は使いません。相談に来られる方たちは、“救済”の対象ではなく、今後一緒に活動する仲間だからです。実際に、かつてお手
伝いをした人たちが、今は僕たちに仕事を教えてくれていたりするからです。」私は謝った。続いて湯浅さんは、やはり生活保護基準以下の生活をしている人た
ちを優先的に支援すべきだと思う、と答えた。

私にとって印象的だったのは、問いに対する湯浅さんの答えよりも、「用語」についての彼のひとことだった。
私が“救済”という言葉を使ったのは、支援する者とされる者との間の立場の非対称性、前者の優位性を、無意識に想定していたからだろう。それを湯浅さんは
否定した。彼は、支援者と被支援者の間の立場の対称性や互換性を前提にすべきだと主張したのだ。

社会の中で格差や分断、対立が深まっている今、人間と人間との間の立場の対称性・互換性ということを、もう一度思い出す必要がある。モンスター・ペアレント、ダメ教師などの言葉に踊らされ、互いに謗り合い憎み合っている場合ではないのだ。

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