点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

海の大掃除? ボイヤン・スラット

2016年08月01日
海の大掃除? ボイヤン・スラット
 
 伊藤宏一(千葉商科大学 人間社会学部教授)  2016年8月1日

夏、海の季節だ。しかし今、海は大問題をいくつも抱えている。気候変動による海水温の大きな上昇、乱獲による太平洋クロマグロなどの絶滅危惧種指定、PCBや放射能などによる汚染、そして微粒子化し分解されないプラスチックごみなどのごみの山。地球市民の共有資源(コモンズ)である海をどうしたら守ることができるだろうか。このうち、海のプラスチックごみを大掃除しようと立ち上がった若者がいる。オランダのボイヤン・スラット君(22歳)だ。

彼は16歳の頃に学校で、海のプラスチック汚染とそれを除去する方法についての研究を始めた。17歳になる頃には、海流の力を利用してプラスチックゴミを回収除去するアイディアを思いついた。

2012年その事をTEDTALKで語り、あっという間に160ヵ国38000人から200万ドル(約2億5000万円)を超える「志金」を集め、2013年、The Ocean CleanupというNPOの基金を創設した。こうして2014年、歴史上最大のプラスチック回収除去プロジェクトは始まった。

彼は2015年5月に来日し、長崎県対馬市の要請を受けて2016年半ばに、対馬沿岸水域に2kmの試験装置を設置するという計画を発表した。つまりこの夏の話だ。そしてこの実験を元に、日本列島の4倍の「太平洋ゴミベルト」に全長100kmの装置の設置を目指す。

対馬沖は魚にとって重要な場所だ。対馬の南西部に広がる東シナ海は浅い大陸棚で、長江や黄河から栄養分が流れ込んでいる。黒潮から枝分かれした対馬暖流がこの栄養分を、対馬や日本海へと運んでくれる。東シナ海や対馬の周辺で生まれたイカ・アジ・サバ・イワシ・ブリなどが対馬を通って日本海へ旅していく。対馬の海はたくさんの魚の産卵場所で、この海が日本各地の漁場を支えているとも言える。ところが対馬沖の水揚げは、最盛期に比べるとイカは5分の1、アワビは6分の1まで、全体の水揚げも3分の1まで落ち込んだ。乱獲による資源の枯渇、漁船の燃料の高騰、漁師さんの高齢化や後継者不足などの他、プラスチックゴミの問題、海水温上昇や藻場の消失など、海の環境変化も影響している。こうした問題に楔を打ち込み、海を再生させるためにも、このプロジェクトは是非成功してほしい。ボイヤン・スラット君がんばれ。

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