点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

人を開花させる銀行

2007年10月17日
人を開花させる銀行
伊藤 宏一(千葉商科大学大学院教授) 
2007年10月17日

銀行の本質とはなんだろう。銀行は「多く所有している者は多くを得ることができる」という原理の下にある。
担保となる資産が多ければ、資金を多く借りられ、金利も安くなるということだ。逆に言えば「ほとんど何も持たないか全くない場合は、何も得られない」。そ
の結果、世界の人口の半分は銀行サービスから除外されている。米国には銀行口座も作れない貧しい人々がたくさんいる。

昨年ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのユヌス博士は、この原理を乗り越えるためにグラミン銀行を
作った。博士は言う。「グラミン銀行は、信用は人権として享受されるべきであるという信念を出発点とする。そして何も所有していない人が最も高い優先順位
で借入ができるというシステムを作る。グラミン銀行の方法論は、人の物的所有の評価を土台にせず、人の潜在的可能性を土台とする。グラミン銀行は、最も貧
しい人も含めて、すべての人が無限の潜在的可能性に恵まれていると信じる。」

最も貧しい女性がグラミン銀行からお金を借りる。彼女はそれでにわとり3羽と子牛1頭を買う。にわとりは毎
日卵を生み、それを売る。子牛は大切に育てて成長したら売る。借りたお金が家畜に投資され、そこからゆったりとインカムゲインとキャピタルゲインがもたら
されるというわけだ。こうした収入で彼女たちは、返済に対する責任感も持つようになり、きちんとお金を返す。グラミン銀行全体の返済率は98%と極めて高
く、返済が滞る割合はとても少い。そして更にグラミン銀行は、彼女たちが得られる収入で、生活を清潔にし子どもに教育を受けさせるように指導する。ユヌス
博士の言う人の潜在的可能性はこうしてみごとに花開く。

一般の銀行の目的は利益の最大化だが、グラミン銀行の目的は貧しい人々、とりわけ女性と最も貧困な人々に金
融サービスを提供して、窮乏との闘いを支援し、収益を作れる状態にし、経済的健康をもたらすことだ。グラミン銀行は貧しい女性に資産の所有権を与えること
によって、彼女たちの生活状態をよくするために仕事をしている。

銀行が人を信用せず、収益至上主義が強化されれば、人もまた信頼を裏切るかもしれない。給食費を払わない、
奨学金を返さないといった恥ずべき事態、「払うべきは払う、返すべきは返す」といった道徳的原理が退化していることの背景には、人に対する信頼と信用を育
む社会的土壌が壊れていることがあるのではないだろうか。グラミン銀行を筆頭とするオルタナティブバンクから学ぶものは大きい。

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