点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

学力の定義

2008年01月08日
学力の定義
なだ いなだ(作家) 
2008年1月8日

最近、教育というと、なにかとフィンランドが話題になる。OECDのPISA調査で、トップの成績をとって
いるというので、世界から視察団が押し寄せているそうだ。日本ではPISAの成績がちょっと下がったというので、学力低下を心配する声や、ゆとり教育を批
判する声が聞かれる。だが、フィンランドでやっていることは、日本のゆとり教育が目指したものだ。向こうは永年ゆとり教育をやってきた。だから改良し定着
させた。日本は教える側のこの方法の習熟度がまだ足りない。その差がちょっと出ている。よく見ればそういうことだと思うのだが、日本では「ゆとり教育」が
批判され、ことはなんだか逆の方に動きそうだ。ということは日本のゆとり教育反対派の、現実を読み解く「読解力」が不足しているということにならないか。
奇しくも、日本の子どもの読解力が低いという結果が、PISA調査で出た。子どもの学習到達度比較ではなく、大人のそれの国際比較が必要だと思う。

フィンランドの教育では、競争で1番になることでなく、個々の達成度をはかることが重要視されている。PISAで順位がどうのこうのという人間が多い日本と対照的だ。

ぼくは42年ばかり前に、アルコーリズムの研究のために、少しの間、この国に滞在したことがある。そしてこ
の国の名前が、本当は「スオミ」であることを知った。この国には90%以上のフィン人と数%のスエーデン人と更にそれより少数のサーミ人(ラップ人)が住
んでいる。フィン語を話す人が9割を占めているのに、国名が国際的にはフィンランドと呼ばれることに、屈折した感情があるようだった。言葉はスエーデン語
とフィン語と2ヶ国語が必修だった。それだけ日本の子どもより重荷を背負わされているわけだ。フィンランドに行くまで、ぼくはそのことを知らなかった。日
本が国際的にジャパンという名前で呼ばれているようなものだから、フィンランド人はよく我慢している。じつに我慢強い。この我慢強さが、とかく子どもを比
較してしまう安易さに流れず、あくまでも子どもを達成度だけで評価することを可能にしているのだろう。

PISAで見ると成績の上の方ばかりでなく、1以下の子どもが少ないのが特徴だ。日本は3年まえの評価では最上位がトップの数だったが、1以下も多かった。つまり落ちこぼれが多かったということだ。そこがフィンランドとの大きな違いだった。

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