点鐘 [連載コラム]

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点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

働く「はたち」が問うもの

2008年07月31日
働く「はたち」が問うもの
本田 由紀(東京大学大学院准教授) 
2008年7月31日

日本教育学会では、2007年秋の時点で20歳であった全国の若者約1,700名を、4年間にわたって追跡
する調査を開始している。私も一員を務めている調査チームでは、現在、第1回調査データの分析と今秋の第2回調査の準備が進められている。第1回調査の分
析結果はこの8月末に開催される日本教育学会大会において報告が行われ、その後に報告書の刊行を予定しているので、詳細はそれらを参照していただきたい
が、ここではひとまず調査対象者の中で働いている層の概況を記してみたい。

働く「はたち」の教育経歴は、高卒未満、高卒、高等教育中退、短期高等教育卒の4つに大別される。この中では短期高等教育卒と高卒がそれぞれ半数弱を占め、さらに高卒者の中には普通科卒と専門学科卒がほぼ拮抗する比率で含まれている。

彼らの現在の雇用形態をみると、正社員比率がもっとも高いのは高校専門学科卒で7割を超え、次いで短期高等
教育卒でも6割を超えている。しかし高校普通科卒では正社員比率は4割を切り、高卒未満と高等教育中退では2割前後にすぎない。それぞれを男女別に見ると
いずれも女性が男性を下回る。非正社員の多くはアルバイトとして働いているが、登録型・日雇型派遣も約1割を占める。アルバイト・派遣社員・契約社員の約
2割は正社員に「今すぐなりたい」、約4割は「いずれなりたい」と希望している。

アルバイトの月収は5万以上10万未満が約3割、10万以上15万未満が約4割であり、ほぼ4人に3人までが15万未満である。正社員は15万以上20万未満の者が半数弱を占める点で非正社員よりは高いが、約3割は15万に達していない。

正社員の中では週50時間以上働く者が4割を超え、男性では約3割が60時間以上働いている。非正社員は40時間未満の者が正社員よりも明確に多いが、契約社員の場合は長時間労働者の比率が相対的に高い。

正社員・非正社員とも約7割は「仕事にやりがいがある」と答え、9割近くが「手抜きをせずに仕事に取り組ん
でいる」と答えている。しかし正社員の半数前後は「労働時間が長すぎる」「仕事の内容がきつい」と感じており、非正社員の約3人に1人は「職業能力を向上
させる機会がない」と感じている。

これらの結果から浮かび上がるのは、働く「はたち」の中に教育上の経歴や雇用形態、性別等によって縦横に分
断線が引かれつつ、総体としては不安定雇用や低賃金、長時間労働などの厳しい労働条件にさらされている者が相当の比重を占めているということである。なお
かつ彼らの多くは仕事に何らかの「やりがい」を見出してひたむきに取り組み、今は非正社員でもやがては正社員にという希望を抱いている。

彼らにはいかなる行く末が待っているのか? この社会は彼らに報いることができるのか? 報いるためには何が必要か? 彼らに対して教育は何をなしえてきたのか? パソコンの画面に並ぶ無言の数値たちは、いくつもの問いを大声で私たちに投げかけてくる。

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