点鐘 [連載コラム]

写真
点鐘(テンショウ)とは、航海者に30分毎に時を知らせる鐘の音のことです。帆船時代には4時間(八点鍾)単位に当直を組み、大海原へ乗り出しました。 この連載コラムでは、各界を代表する方々が、自由なテーマで時代の点鐘を鳴らします。

「垂直的多様化」で良いのか

2008年11月28日
「垂直的多様化」で良いのか
本田 由紀(東京大学大学院准教授) 
2008年11月28日

ある自治体の高校政策と、そのもとでの普通科高校生の実態について。

その自治体の教育委員会は、普通科高校を明示的に3つの層に分け、それぞれ別々の機能をもたせる政策を進め
ている。3つの層とは、「進学校」、「中堅校」、「課題校」である。このように高校をタイプ分けし、それぞれの生徒層に特化した教育を施すことによって、
「目に見える」結果を出すことを教育委員会は意図している。学区制を廃止したことにより、「進学校」には中学時に成績が上位であった生徒を広域から集める
ことが可能になった。その代わりに「中堅校」にはそうした生徒は極端に少なくなるとともに、近隣から通う生徒が過半を占めるようになった。

「進学校」の生徒たちは勉強や課外活動へのコミットメント自体は強いが、遠方から通学している生徒は部活動
や委員会活動などに時間を割くことが難しい。その結果いっそう、「進学校」では大学進学に特化した高校生活が繰り広げられる。そのように大学進学に価値が
一元化している中で、中学時に成績が良かった生徒が集中している「進学校」内部で相対的に成績が低い生徒は元気をなくしがちである。それでも進学指導体制
ががっちりしており、通塾率も高いため、9割近い生徒が4年制大学への進学を予定している。

「中堅校」の生徒はそもそも進学先高校を選択する際に、「入れるところで、できれば近いところならどこでも
いい」という基準で選びがちで、そのため高校生活へのコミットメントは強くなく、近隣から通学している割には諸活動に熱心でない生徒が多い。校内の友人数
も「上位校」の生徒と比べて少ない。半数前後の生徒はアルバイトをしている。中学時に成績が良かった生徒は「中堅校」の中では少数派だが、学校内部では相
対的に自信をもっている。しかし4年制大学への進学予定者比率は「進学校」の半分程度にすぎない。

「課題校」には、中学時に成績が不振であった生徒や不登校気味であった生徒が集められている。入学選抜では
成績ではなく、従順な生徒であるかどうかが重視される。基礎的な内容の授業や体験的な授業が多く設定されていることもあり、以前よりも中退率は低下した。
しかし卒業後に必要な力がついているかどうかは覚束ない。

こうした政策の方向性は「垂直的多様化」と呼べるだろう。生徒たちは、成績という基準で振り分けられ、同じ
く「高校生」と呼ばれながらも大きく異なる高校生活を送る。これは当り前か。これはいいことなのか。私はそうは思わない。層を分け、固定化し、それぞれに
応じた処遇を「効率的」に与えること。その歪みがもつ問題性を問いかけたい。

 

pagetop