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【識者の視点④後編】外国につながる子どもの学習支援は子どもの持つ母語の力を活かして― リアルタイム多言語翻訳システムの可能性
黒田 恭史(くろだ・やすふみ 京都教育大学 教育学部教授)
京都教育大学教育学部数学科教授。小学校教員時代に行った豚を飼う実践が2008年に「ブタがいた教室」として映画化。16年より学生らとともに不登校の子どもや外国につながる子どものための多言語に対応した算数・数学動画コンテンツ制作を開始し、専用ホームページで無償公開している。著書に「本当は大切だけど,誰も教えてくれない算数授業50のこと」、「動画でわかる算数の教え方」(明治図書)などがある。
前編では、日本語指導が必要な外国につながる子どもの推移について概観し、これまで制作・公開してきた多言語対応版算数・数学動画教材について解説しました。後編では、多言語対応版算数・数学動画教材の効果と限界について触れるとともに、日本語で授業を行っている通常学級におけるリアルタイム多言語翻訳システムを用いた外国につながる子どもの学習支援について解説します。
多言語版算数・数学動画教材の制作と公開
2016年から不登校の子どもや外国につながる子どもを対象として小学校算数から高等学校数学までの動画教材の制作をしてきており、現在では、日本語版約800本と、ブラジルポルトガル語、英語、韓国語、中国語、ウクライナ語、ベトナム語等に翻訳した多言語版約2,500本を専用ホームページ(https://www.kurodalab.jp/tmc/)で無償公開しています。
下記は、ブラジルポルトガル語版の画面の一部ですが、アニメーションとともに、ブラジルポルトガル語の音声での解説が行われます。全ての言語において、画面構成と音声内容を同一にしていますので、日本語版と併用すれば、「母語での学習」、「母語と日本語併用の学習」、「日本語での学習」といった多様な方法を用いて学習することができます。

多言語版算数・数学動画教材の効果と限界
多言語版算数・数学動画教材は、外国につながる子どもが集住する地域の、神奈川県横浜市、愛知県名古屋市、静岡県浜松市などの教育委員会と連携して、各学校で活用されてきました。また、工場設置などで外国につながる子どもが急増した福井県越前市、島根県出雲市などでも活用されています。
学校現場からは、算数・数学の未習内容の理解や、母語と日本語の対応関係を学ぶ際に効果があるといった連絡をもらいました。さらに、漢字にルビを振ってほしいや、ブラジルでは分数の扱いが少ないようなので内容を充実させてほしいといった要望が寄せられ、それらに応えるべく改良に努めてきました。
一方で、限界も感じるようになっていました。「動画教材」ですので、どうしても補習学習といった方法での活用になってしまい、教室内の授業場面での教員と生徒の日本語でのやり取りなどには、対応できないという問題です。
リアルタイム多言語翻訳システムの開発と頓挫
2022年に入り、生成AIが社会に急速に浸透するようになりました。生成AIは、言語の翻訳作業においては精度とスピードが極めて高いという特長を持っており、これを活用すれば、これまでの懸案となっていた授業場面での日本語と母語との翻訳作業が容易に行えるのではないかと考えるようになり、リアルタイム多言語翻訳システムの開発に着手することにしました。
開発当初は、教員と黒板が映された画面の下部に母語をリアルタイムに表示するという、いわば映画のテロップのような形式で制作していたのですが、デモ版を教員に見てもらうと、いくつも要望が寄せられました。例を挙げると、「テロップのように母語がどんどんと出ては消えするようでは、落ち着いて考えたり、戻って考えたりすることができない」、「来日時期が小学校5年生であれば、6年生以降の学習用語は、母語ではなく日本語で学習しているので、母語に翻訳されたら余計にわからなくなる」といったものです。
言われてみれば、その通りのことばかりだったのですが、全く気が付かずに完成に向けてひた走っていました。そのため、ここで立ち止まるのはかなり勇気がいりましたが、後で後悔することがあってはならないと、システムの仕様を抜本的に見直すことにしました。
リアルタイム多言語翻訳システムの改良
改良したリアルタイム多言語翻訳システムは、画面の左半分を教員と黒板を映し、右半分の上側に日本語テロップ、下側に母語テロップが出るようにし、日本語や母語は、スクロールで以前の発話記録まで戻ることができるように改良しました。黒板に書かれた日本語もクリック一つで母語に変換できるようにしました。併せて、母語でのテロップを、自動音声読み上げ機能を装備してイヤホンで聞くことができるようにもしました。
下記の図の左側は、日本語で書かれた板書をネパール語に翻訳している場面で、右上側は教員の発話の日本語テロップが表示され、右下側は翻訳されたネパール語が数秒遅れで表示されていきます。さらに、イヤホンを活用すると、自動音声読み上げ機能を用いてネパール語で先生の話した内容を聞くこともできます。

実証実験を開始しました!
昨年度から、小学校、中学校、高等学校で実証実験を開始しています。現在までに、京都教育大学附属桃山中学校・高等学校を皮切りに、京都市立小・中学校、愛知県豊田市立中学校、大阪府立高等学校での実証実験にとりくんでいます。2学期以降は、京都府京田辺市、大阪市などでも実施していきます。
実証実験を通じて、さらなる課題もでてきました。日本の小学生と高校生では、理解できる日本語のレベルが異なるのと同様、外国につながる子どもも年齢によって理解できる母語のレベルが異なります。これらに対応したシステムの改善や、ひらがなだけでテロップが表示される「わかち書き」バージョンなども検討中です。
併せて、このシステムを活用すれば、聴覚や視覚に障がいのある子どもにも学習支援の効果があるのではないかと考えています。
これからも、外国につながる子どもの多様な状況に応じて「母語での学習支援」、「母語と日本語での学習支援」、「日本語での学習支援」が可能となる、システム改善と普及にとりくんでいきたいと考えています。
