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2025/11/06 教育関連記事

「見えにくい心のサイン」を読み解き、自尊感情を育む 命と向き合う教育現場からの視点

副島 賢和(昭和医科大学保健医療学部教授、昭和医科大学病院内さいかち学級担当)

大学卒業後、東京都の公立小学校教諭として勤務。2006年より品川区立清水台小学校教諭・昭和大学さいかち学級担任。2014年より昭和大学准教授。2024年東京学芸大学博士課程修了。博士(教育学)。2025年より現職。学校心理士スーパーバイザー。ホスピタルクラウン。2009年ドラマ「赤鼻のセンセイ」(日本テレビ)のモチーフ。2011年「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK総合)出演。

 


 

日々、多様な子どもたちと向き合う中で、「あの子の言動の真意は何だろう?」と悩むことはありませんか。長年、院内学級で病気の子どもの教育に携わってこられた副島賢和先生は、命と向き合う教育現場で、子どもたちが発する「見えにくい心のサイン」を読み解く力を培ってきました。その貴重な経験から得られた、すべての子どもたちに通じる「心の支援」をテーマにお話をうかがいました。

 

――院内学級を担当することになった際、通常の学級と比べて、教育を行う上での大きな違いや困難はどのような点でしたか?

最初に感じたのは、「計画が立たない」という業務上の困難さでした。通常の学校では1時間の授業を想定し、計画を立てて進めますが、院内学級では、子どもたちは突然の検査や処置で教室に来られなくなったり、体調が悪化したりします。用意していても、その日の体調では対応できるエネルギーがなかったりする。教員として想定していた授業ができないことに当初はとても戸惑いました。

 

子どもたちの「心のあり方」については、元気のない子や不登校の子も含めれば、一般の学級と大きく変わるわけではないのですが、院内学級の子どもたちは喪失感を持っていたり、病気のせいで周りに迷惑をかけているのではないかという自責の念を持っていたりします。そのため、自尊感情がとても低い子の割合が多いというのは、大きな違いとしてありました。

 

――院内学級のように人数の少ない特別支援の場と、通常の学級を両方経験された視点から、子どもたちの成長のために教職員が意識すべきことは何でしょうか?

特別支援の場にいると、おとな(教職員)が意識を子どもに向けすぎてしまう側面があります。病気の子は、点滴をしていたり、手術直後だったりするので、ついあれこれと手伝いたくなってしまうんです。

 

でも、子どもたちが成長していくためには、おとなが見ていないところでいろんな学びをすることが不可欠です。ですから、特別支援の中で教職員が頑張らなければいけないことは、「見て見ぬふりをすること」なんじゃないかと感じています。やってあげたいのをぐっとこらえるのです。

 

一方で、通常の学級では、どんなに頑張っても30人、40人全員には教員の意識が行き届きません。そうすると、子どもたちがバラバラになってしまう、好き勝手になってしまう。そこでどうするかというと、「子どもたち同士で育ち合う関係や環境を作る」というのが、教員の仕事なんじゃないかな、と考えています。それが集団と個のバランスを取る上で大事なことではないかと思います。

 

――子どもが発する「言葉の裏にある気持ち」を汲み取るために、教職員は何に注意を払うべきでしょうか?

子どもたちの「やりたくない」という言葉には、異なるメッセージが込められています。「やりたくないこの気持ちを聞いてよ」という、感情の承認を求めていることが多いと感じます。一方、「やだ」「やらない」と言ったときは、「別に(この課題とは関係ないところで)引っかかっていることがあるから、今はそこに向き合えないんだよ」というメッセージだと感じています。不登校の子どもたちへの対応にも近いものがありますが、その「引っかかっているところ」におとなが触れたり、軽減してあげたりすることが、子どもが次のステップ、課題に向き合うために大事なことではないでしょうか。

 

――不登校の子どもや子どもの暴力行為が増えています。その背景にある、子どもたちの感情の問題についてご意見をお聞かせください。

不登校は、子どもたちの現状の学校に「合わない」、あるいは「合いたくない」という感情からきている部分が大きいです。教職員のみなさんには、不登校の問題を通して、子どもたちの「合わない」という感情の裏にある「しんどさ」を理解し、その子たちが「学校と切れ目なくつながっていられる」ような視点を持っていただきたいです。

 

暴力行為の背景には、子どもたちの感情をおとながちゃんと聞けていなかったり、子どもたち自身がその自分の感情を上手に扱えなくなっていたりというところが、暴力という結果に表れてしまっていると考えています。

 

世の中は子どもに「感情をコントロールしなさい」というメッセージを渡しますが、それはしばしば「不快な感情に蓋をしろ」という要求になっています。怒りなんかなかったように、悲しみなんかなかったように。なきものにした感情は、コントロールできません。どう扱っていいか分からず、ある子は自分を傷つけたり、ある子は人を傷つけたりという方向にいってしまうのではないでしょうか。自分の感情にちゃんと向き合う機会を作ってあげることが大切です。

 

――暴力などの問題解決のため、私たちが意識すべきことは何でしょうか?

まずはおとながモデルを示さなければいけないと思っています。暴力によって物事が解決したり、自分の気持ちが少し落ち着いたり、誰かが言うことを聞くという「学習」を子どもがしてしまったら、それを応用してしまうはずです。

 

「こういうときに言うことを聞くよね」

「こういう時に嫌な思いをさせることが有効だよね」

 

そんな体験をしてしまうと、誰かに言うことを聞かせたいとき、嫌な思いをさせたいとき、子どもはそれを応用すればいいと学んでいるはずです。おとなは、感情的な怒りや不満を、暴力以外の方法でどう解決するのかというモデルを、子どもたちに示し続ける必要があります。

 

――子どもにいうことを聞かせたい時、「ご褒美」や「罰」が使われがちです。

ご褒美や罰が通用するのは、自分のことをちゃんと大事に思えている自尊感情が高い子です。失敗を重ね、自分のことをダメだと思っている自尊感情の低い子は、ご褒美も罰も通用しないことが多いです。だから、まずは自分のことを大事に、素敵な存在だと思えるような、自尊感情を育んでいくことが重要です。

 

そして、うまくいった時の関わりではなく、「うまくいかなかった時の関わり」をどうするかがとても大事です。まずは、「うまくいかないあなたのこともダメだとは思っていないよ」ということを伝えた上で、「じゃあ、どうすればよかったんだろう?」と、子ども自身がどうなりたいのかを一緒に考えていく必要があります。

 

ただ、保護者や担任の教員は子どもに近すぎて感情がごちゃ混ぜになりやすいので、周りの人の助けやサポートが必要です。子どもに思いがあればあるほど感情はごちゃ混ぜになります。だから、同僚に手伝ってもらう、周りの人に手伝ってもらって学級経営をしていくんだと思っています。今はスクールサポーターの方たちもいらっしゃるので、そういう方のお力も借りながらやっていかないと、子どもたちは育めません。

 

――『e-station news』のオンライン勉強会(25年12月21日開催)にご登壇予定です。参加される教育関係者のみなさんに、どのようなメッセージを届けたいですか?

現在、いろんな学校にお邪魔して事例検討会や教員研修をさせてもらっていますが、教職員のみなさんにはまず、元気であってほしいと心から願っています。

 

教職員のみなさんのエネルギーがたまることが、子どもたちを支える土台になります。「今ちょっとエネルギーないんだよなぁ」という教職員や、「自分は大丈夫だけど、ちょっと同僚がしんどそうなんだよね」という方にこそ参加していただきたいです。

 

このオンライン勉強会が終わった時に、みなさんが「また明日も頑張ろうかな」「ちょっと子どもに会いたくなりました」と言ってもらえるような時間になるように、全力を尽くしたいと思っています。私自身は、嫌われてもいいので、後輩たちに伝えたいことをしっかり伝えていこうと思っています。こういう機会をいただけるのは本当に幸せです。

 

「赤鼻センセイ」によるオンライン勉強会開催のお知らせ!

 

子どもの「やりたくない」という言葉の裏にある心のメッセージ。「見て見ぬふり」が育む子どもの自立。そして、何より教職員自身が心身を整えることの重要性。これらのエピソードをより深く知り、日々の教育活動に役立てていただくため、副島先生をお招きしたオンライン勉強会を開催することになりました。

 

記事では紹介しきれなかった、子どもたちとのエピソードや、具体的な声かけの事例などもご紹介いただきます。「あの子の行動の本当の意味が知りたい」、「自分自身の指導を見直すきっかけが欲しい」と感じた教職員のみなさんは、ぜひオンライン勉強会の申し込みページからお申し込みください。

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