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【イベントリポート】少子化時代の部活動改革へ、産官学連携が描く「大きな器」
2025年8月25日、急激な少子化が進む中、未来にわたり生徒がスポーツや文化芸術活動に継続して親しむ機会を確保するため、「部活動の地域展開・地域クラブ活動の推進に向けた産官学連携フォーラム」がスポーツ庁主催で開催された。
本フォーラムには、地方自治体やスポーツ団体に加え、民間事業者や大学など幅広い関係者が集い、今後の部活動改革について活発な意見交換が行われた。
「150年に一度の改革」にむけ、室伏長官が語る「未完成の美」
会の冒頭、スポーツ庁の室伏広治長官が「子どもたちのための部活動改革〜産官学の連携を通して〜」と題して基調講演を行った。室伏長官は、子どもたちのスポーツや文化芸術の環境整備には、既存の優れた事例の共有と、産官学が一体となった新たな解決策の議論が不可欠だと語った。

その上で、子どもたちの人口減少が確実な今こそ、追い詰められてからではなく、選択肢があるうちに「今」始めることが重要だと強調した。また、部活動改革の話し合いを重ねる中で抱いたという、「子どもたちを『小さな完成』として育てるのではなく、未完成でも『大きな器』として育てること」の重要性を説いた 。
早く結果を求めすぎると、その場限りになり継続が困難になるとして、「未完成の美」という日本的な考え方を大切にし、多様なおとなが関わりながら子どもが成長できる環境を地域でつくることが重要だと述べた。
「非認知能力」を育む新たなクラブ活動の姿
続いて行われたパネルディスカッションでは、室伏長官に加え、栗山英樹氏、小路明善氏、代田昭久氏、原晋氏、益子直美氏といった各分野の有識者がそれぞれの立場から意見を交わした。
最初のセッション「これまでのスポーツ環境の課題」と「地域クラブ活動がめざすべき姿」について、それぞれの思いが語られた。

アサヒグループホールディングス株式会社会長の小路明善氏は、部活動の地域展開は、ただの「地域移行」ではなく、学校の活動を地域全体に開き、地域の多様な資源を活用して新たな価値を創出することが目的だと説明した。
産業界の視点から、これまでの「学歴」を重視する社会から、「何を学び、何を身につけたか」という「学習歴」を重視する社会へ転換すべきだと提言。また、地域や所得の格差による受益格差を減らし、誰もが主体的に学べる多様な選択肢を保障する必要性を訴えた。
長野県飯田市での教育局長の経験もある、一般社団法人未来地図代表理事の代田昭久氏は、従来の部活動が体罰やいじめ、怪我といった問題に深く関わっている実態を指摘した。
中学生へのアンケート調査で、子どもたちが年間で部活動に665時間も関わっており、多くの生徒が「自分の時間がもらいたい」と回答したことを明らかにした 。子どもたちに時間を返すことで、主体性を取り戻し、自らで時間を管理する経験を積むことが、将来的な日本の労働生産性の向上にもつながると述べた。

野球界の視点から、北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサーの栗山英樹氏は、野球人口が激減している現状に危機感を表明し、部活動改革の難しさを認めつつも、これを「チャンス」と捉えるべきだと語った。
昔は地域全体で子どもを育てていた感覚があったが、個別化が進んだ現代において、この改革を機に再び地域が子どもたちを見守り、育てる意識を持つべきだと提案。
おとなたちが「この改革は子どもたちのためになる」と心から信じ、腹をくくってやり遂げることが重要だと力説した。

青山学院大学で陸上競技部監督を務める原晋氏は、今後のAI時代では、従来の記憶力やIQといった「認知能力」だけでなく、「非認知能力」の向上が社会に有益な人材を育むと主張した。
この非認知能力(計画力、分析力、コミュニケーション能力など)を育む場として、クラブ活動が大きな役割を担うと述べた。その上で、指導者自身が昭和的な指導方法をアップデートし、非認知能力の向上を意識した指導に変わることが課題だと指摘。大学で地域の指導者育成プログラムを実施している事例を紹介し、地域で指導者を育てていくことの重要性を語った。

最後に、自身の現役時代の経験を振り返った日本スポーツ少年団本部長の益子直美氏は、この改革を機に「勝利至上主義の奪回」をめざしたいと語った。
11年間継続している「怒ってはいけない大会」の事例を紹介し、ミスをした子どもに再度チャレンジを促すことの重要性を強調。子どもたちが主体的に楽しく活動できる機会として、スポーツ少年団が「エンジョイ軟式野球フェスティバル」などにとりくんでいることを紹介し、指導者が「怒らない」ことを新しい技術として身につけるべきだと訴えた 。

産官学の連携でつくる「豊かなまちづくり」
続いてのセッションでは、部活動改革を円滑にすすめるための産官学連携のあり方が議論された。
小路氏は、2040年には約4割の自治体が「消滅可能性都市」となるという社会課題を挙げ、自治体任せではなく、産官学が一体となって学びの場をつくっていく必要性を強調した。産業界が提供できる支援として、定年退職者などによる指導者派遣や、IT・ICT技術を活用した運営効率化、指導不足解消といったソリューションを挙げた。
続いて代田氏は、地域クラブ活動の財政的な課題について触れ、特に過疎地域では部活動そのものが存在しない場合もあり、国に頼るだけでなく、自治体や地域がネットワークを築き、自らで解決策を模索する姿勢が重要だと述べた。地域の人々が子どもたちと一緒に活動を楽しむ環境をつくることで、子どもたちが地域に誇りや愛着を持つことにつながるとし、これは「未来へのまちづくり」だと語った。
栗山氏は指導者について、「野球経験者でなくても、子どもの将来を考えて愛してくれる人がいればいい」と述べ、指導者がいなければどうしたらいいのかという問いに対し、まずは「いるはず」だと信じて、おとなとして自信を持ってむかい合うべきだと語った。プロ野球と高校野球が連携し、高校生が地域の子どもたちを指導する新たなとりくみが始まったことも紹介し、多様な指導機会の創出を提言した。
原氏は、地域における指導者育成の課題に対し、「年配者を排除するのではなく、どう巻き込んでいくか」という視点の重要性を強調した。大学が地方自治体と連携して、地域住民が無料で受講できる指導者育成プログラムを展開している事例を紹介し、地域社会の活性化にもつながる問題だと述べた。また、甲子園や駅伝の事例を挙げ、資金調達を「悪」と捉えるのではなく、健全な運営のために必要な資金を確保するルール改革の必要性も訴えた。

益子氏はスポーツ少年団の活動は小学生で終わると思われがちだが、中高生も継続して活動している子どもたちが多くいると説明した。将来の指導者・リーダーを育成する「ジュニアリーダー」「シニアリーダー」活動や、ドイツとの国際交流事業など、スポーツを通じて人生観を変えるようなとりくみを紹介し、子どもたちが地域とつながり、必要とされる人材に成長することの意義を語った。
最後に、室伏長官は部活動改革は中学生のためだけでなく、地域を元気にする力があるとし、おとなたちが腹をくくってとりくむべきだと強調した。改革はすぐに結果が出るものではないが、5年、10年、20年後に「やってよかった」と思えるように、一人で悩まずに産官学でチームをつくってすすめていくことが重要だと述べた。そして、スポーツや文化活動には人の人生観を変えるほどの大きな可能性があるとし、「未完成でも大きな器」を育てていくことにつなげたいと改めて結んだ。
今回のフォーラムは、従来の部活動が抱える課題を浮き彫りにするとともに、その解決にむけてスポーツや文化芸術活動を「子どもたちの主体性」と「地域のおとなの連携」を軸に再構築していくことの重要性を共有する場となった。
日教組がめざす部活動の地域移行は、社会教育をベースにした総合型地域クラブ活動であり、すべての子どもが楽しめるものである。「地域で子どもたちを育てる」という栗山氏や原氏の言葉、「子どもたちが主体的に楽しく活動できる機会」という益子氏の言葉が後押しとなるような部活動改革の実現を求めていく必要がある。

《スポーツ庁「部活動の地域展開・地域クラブ活動の推進に向けた産官学連携フォーラム」》
