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2025/07/24 教育関連記事

【識者の視点②後編】不登校の子どもの学習支援は待ったなし―オンラインによる算数・数学学習支援の可能性

黒田 恭史(くろだ・やすふみ 京都教育大学 教育学部教授)

京都教育大学教育学部数学科教授。小学校教員時代に行った豚を飼う実践が2008年に「ブタがいた教室」として映画化。16年より学生らとともに不登校の子どもや外国人の子どものための多言語に対応した算数・数学動画コンテンツ制作を開始し、専用ホームページで無償公開している。著書に「本当は大切だけど,誰も教えてくれない算数授業50のこと」、「動画でわかる算数の教え方」(明治図書)などがある。

 


前編では、日本における不登校児童生徒数のこの間の推移と、その特徴について解説し、問題の所在を明確化しました。後編では、不登校児童生徒の学習支援、とりわけ算数・数学支援のあり方について解説し、具体的な支援のためのチャンネル(方策)について提案します。

 

小学生の算数の学力はなぜ大切なのか

 

今や非常に便利な時代になりましたので、日常生活において算数の学力が必要な場面がどんどんと見えなくなってきています。ケータイがあれば、四則計算や速さなどの様々な量もすぐに計測可能なので、算数なんて学習しなくても生きていくことができるといった気持になってしまうかもしれませんが、それはかなり極端な考えといえます。

 

言語が人と人との心をつなぐ重要な媒体であるとともに、算数は人と事物とをつなぐ重要な媒体であるといえます。すなわち、人が様々な事物を詳しく認識し、過去と現在の変化を正しく捉えるためには、算数の考えが必要となるわけです。そして、過去と現在から、未来を予測する法則を学ぶことこそが算数の学習といえるのです。現在という瞬間だけに目を奪われるのではなく、将来という未来を予測する力を身に付けることが、人として生きていくうえで重要であることは言うまでもありません。

 

小学校低学年での不登校増加率の急増は、この算数の根本の学習が十分に行われずに、学年が進んでいくという危険性を物語っていますが、将来の人生を主体的に逞しく切り開いてくためには、算数の学力の下支えが絶対に必要となるのです。

 

オンラインによる学習支援のあり方

 

コロナ禍以降、テレビ会議システム等を用いて授業をオンライン配信することが、全国各地の学校現場で行われるようになりました。自宅や学校内の別室で授業を受けることが可能となり、不登校の子どもの学習環境が非常に改善されることとなりました。

 

一方で、不登校の子どもの中には、不登校期間が長期に渡り学力が当該の学年のレベルよりもかなり低いために、配信される授業内容の理解が十分になされないといった問題も生じてきています。

 

ところで、下記の図は、オンラインによる学習支援のあり方を示したものです。横軸に「同期と非同期」、縦軸に「一斉と個別」を置くと、4つのタイプのオンライン学習支援が可能となります。左上は「同期と一斉」ですので、「Ⅰ テレビ会議」となって上述のオンライン授業配信となります。また、左下は「同期と個別」ですので、「Ⅱ 個別対応支援」となって、日ごろの困りごとなどの支援となります。右上は「非同期と一斉」ですので、「Ⅲ オンデマンド配信」となって、個別の子どもの学力に応じた動画教材の提供による学習支援となります。最後の右下は「非同期と個別」ですので、「Ⅳ アバター支援」となって、対話型・伴走型の個別学習支援となります。

 

このように考えると、今後は、「Ⅲ オンデマンド配信」や「Ⅳ アバター支援」を充実させることで、不登校の子どもの個別の学力に対応した学習支援が可能となるのではないかと考えられます。

 

小学校算数から高等学校数学までの動画教材約800本の制作と無償公開

 

2016年から小学校算数から高等学校数学までの動画教材を約800本制作してきました。この動画は、不登校の子どもを対象としていますので、制作のコンセプトは「ベッドに寝ながらスマホで3分学習」としました。算数・数学内容のポイントを短時間で学習できるようにしており、現在は専用のホームページ(黒田教育研究所)で無償公開しています。なお、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響による全国一斉休校のときには、これらの動画教材を全国の多数の子どもたちが自宅学習の補助として視聴していました。

 

 

下記の図は、動画画面の一例です。左側にルールが示され、右側がアニメーションで動きながら音声による解説が流れる仕組みになっています。全ての動画教材が同一の画面構成になっていますので、不登校の子どもも安心して安定的に学習することが可能です。

 

 

また、全ての学年の内容が揃っていますので、個々人の学力に応じて、どの学年の内容も視聴・学習することが可能となっています。誰にも見られずに、自由に動画教材を視聴できるという環境を実現することで、勉強ができていないという劣等感や焦燥感からの緩和にも役立っています。

 

アバターによる対話型・伴走型学習支援の実現

 

生成AIの急速な進歩により、不登校の子ども一人ひとりに対応したアバターによる対話が可能となってきました。この間、コニカミノルタ(株)のtomoLinksと共同で、算数・数学の対話型学習支援が可能な学習支援システムを構築しています。これらを用いることで、単に質問に対する答えを返すだけではなく、子どもに考えさせたり、ヒントを与えたりしながら解答に接近していくといったやりとりができます。現在、大阪市の公立小学校と連携して実証実験を行っています。応答の適切な回数や、様々な学習場面における使用方法の可能性について、子どもたちに使ってもらいながら検討を行っています。

 

下記の図は、そのやり取りの一例です。学習者の状況に応じて、伴走しながら解答に接近していく点に新しさがあり、このことによって不登校の子どもは、誰かと一緒に学習しているという感覚を持つことができます。

 

コニカミノルタtomoLinks「先生×AIアシスト」

 

オンラインを活用することにより、これまで手が届かなかった個別の学習支援に、少しずつ対応することが可能となってきました。不登校の子ども一人ひとりが、将来の人生に希望と安心を抱くことができるようになるために、新たなとりくみにチャレンジしていきたいと思います。

 

———————————————-関連情報———————————————-

 

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