- TOP
- 【識者の視点③前編】認知行動療法に基づく教育現場での働き方改革 ―機能的な「チーム学校」の運用のために―
【識者の視点③前編】認知行動療法に基づく教育現場での働き方改革 ―機能的な「チーム学校」の運用のために―
小関俊祐(こせき・しゅんすけ 桜美林大学リベラルアーツ学群准教授)
公認心理師、臨床心理士、認知行動療法スーパーバイザー、指導健康心理士、日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント🄬実践士。日本認知・行動療法学会理事および企画委員長、一般社団法人公認心理師の会理事および教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事および研究委員長等を務める。近著に「小中高をシームレスにつなぐ ストレスマネジメント教育プログラム(金子書房)」、「子どもと一緒に取り組む園生活での子どものストレス対処法(中央法規)」、「事例で学ぶ教育・特別支援のエビデンスベイスト・プラクティス(金剛出版)」など。
—————————–
現代の教育現場は、児童生徒の多様化、教職員の多忙化、そして学校を取り巻く社会環境の急激な変化といった、さまざまな課題に直面しています。こうしたなか、「働き方改革」は単なる業務削減や効率化にとどまらず、学校が本来果たすべき「子どもたちの成長を支える場」としての機能を最大限に発揮するための土台作りと捉える必要があります。
そのためには、個々の教職員の努力に頼るのではなく、学校全体が「チーム」として機能すること、すなわち「チーム学校」の理念が不可欠とされています。そのチーム学校を実現させるための具体的なヒントが、「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)」にはあると考えています。この認知行動療法の視点を取り入れることで、より機能的な「チーム学校」を実現し、教育現場の働き方改革を推進することが期待できます。
1.教育現場における認知行動療法
認知行動療法とは、個人の認知(考えかた)と行動のパターンと、個人の置かれている環境(状況、場面、他者の存在など)との相互作用に着目し、その相互作用のなかで生じているさまざまな課題や問題を解決するための選択肢を増やし、適切に選択することを支援する心理療法です。
たとえば「友だちが、昨日、本を貸してくれると約束したのに、今日会っても何も言わない…」という出来事に直面した際に、「本当はぼくに貸したくないから忘れたフリをしてるんだ…」と考えると、ストレスが大きくなるだけではなく、人間関係も悪化してしまうかもしれません。
それに対して、「たまたま忘れちゃったのかな?」とういう考えに気づくことができると、ストレスは小さくなりやすく、また、「友だちに尋ねてみる」などの新たな行動につながることも期待できるでしょう。

このような認知行動療法は、もともと、成人のうつ病や不安症などの治療技法として発展してきましたが、現在は、特段問題を抱えていない子どもたちへの予防的支援や、子どもの抱える課題への解決策としても広く活用されています。
たとえば、ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training: SST)なども、認知行動療法のアプローチの1つです。そして近年は、いじめや不登校、粗暴行動などの行動上の問題に加えて、発達障害や知的障害のある児童生徒の理解と対応、あるいは児童生徒のメンタルヘルス支援だけではなく、教職員集団や学校組織全体への応用も進んでいます。
2.「チーム学校」とは「機能的な役割分担」を行うこと
「チーム学校」とは、教職員だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、保護者、地域住民など多様な専門性を持つメンバーが協働し、学校運営や児童生徒支援を行う体制です。従来の「一人担任制」や「縦割り組織」では対応が難しい複雑な課題にも、横断的な連携によって柔軟にとりくむことが可能となります。
しかしながら、その実態としては、このチーム学校の考え方がどの程度浸透していたり運用されたりしているかは、学校や地域によって大きな差があるのが現状でしょう。このチーム学校の推進の難しさの一つの要因には、子どもの状態像を共有することの困難さが挙げられます。
「学校に行かない子」と言われたら、どのような児童生徒を想像するでしょうか。おそらく多くの方は不登校をイメージするでしょう。では、不登校のこの子どもは、いったい何をしているのでしょうか。もしかしたら家でゲームばかりしているかもしれないし、勉強しているかもしれない、日中ずっと寝ているかもしれないし、ゲームセンターに入り浸っているかもしれない、フリースクールに通っているかもしれないし、スポーツの全国大会に出場している場合でも、「学校に行かない」と表現することができてしまいます。
すなわち、「どこで」「どのような行動をして」「どのようないいことを得ているか」といった、行動を軸とした整理をすることで、子どもの状態像の把握は一気に具体化されます。そして、「どこで」に着目すれば、「誰が支援しやすいか」が分かりやすくなります。基本的には、家庭で確認できる行動は家庭が主体となり、学校で確認できる行動は学校が主体となることが優先されるでしょう。他機関であれば他機関の職員が主導します。

このように、それぞれの立場の者(保護者、教員、他機関職員、専門家…)が適切に役割分野を行い、自分の関わりやすい場面で、関わりやすい行動に対して支援を講じることを「機能的役割分担」と呼びます。
機能的、というのは、「上手く行きやすくて負担が少ない」といった意味合いです。保護者が学校で生じる問題にアプローチしようとするのは負担が大きいので、機能的ではないですし、教職員が家庭の問題にアプローチしようとすることも同様です。このような考え方は、不登校に限らず、特別支援教育、いじめ、非行など、さまざまな課題に対して、同じように活用することが可能です。
3.認知行動療法のさらなる活用
認知行動療法は、学校内の、教職員間でももちろん活用が可能です。多くの場合、児童生徒の課題には、担任が主導することが多いですが、「どんな問題も常に担任が主導する」は必ずしも「機能的」ではないこともあります。
児童生徒には、学年担当、部活や委員会の担当、養護教員、校長や教務など、さまざまな教職員が関わっていることを踏まえれば、「担任が主導」を初めから決めてしまうのではなく、「誰が主導するのが最も効果的であり効率的か」を検討することが必要でしょう。
そのためには、教職員間の円滑なコミュニケーションは必須ともいえます。管理職等は、各教員の得意なこと、好きなこと、児童生徒との相性などを把握しておくことも必要でしょう。また、子どもの理解と同様に、「どこで」「どのような行動をして」「どのようないいことを得ているか」といった枠組みで整理することは教職員を含むおとなにも当てはまります。
児童生徒への支援や指導を行うことに対して、児童生徒の望ましい行動の出現や増加に加え、周囲の教職員からのポジティブなフィードバックも、次の課題に対してとりくむ大きな糧となるでしょう。
後編では、認知行動療法の学校現場でのより具体的な活用事例をご紹介します。

《参考文献》
小関俊祐・新井 雅・杉山智風・石黒康夫(編著) 2025 『認知行動療法の事例で理解する教育相談・生徒指導・進路指導』(大学教育出版)
