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2025/08/12 教育関連記事

【識者の視点③後編】学級での認知行動療法の活用―子どもたちの成長をサポートする視点―

小関俊祐(こせき・しゅんすけ 桜美林大学リベラルアーツ学群准教授)

公認心理師、臨床心理士、認知行動療法スーパーバイザー、指導健康心理士、日本ストレスマネジメント学会認定ストレスマネジメント🄬実践士。日本認知・行動療法学会理事および企画委員長、一般社団法人公認心理師の会理事および教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事および研究委員長等を務める。近著に「認知行動療法の事例で理解する教育相談・生徒指導・進路指導(大学教育出版)」、「子どもと一緒に取り組む園生活での子どものストレス対処法(中央法規)」、「事例で学ぶ教育・特別支援のエビデンスベイスト・プラクティス(金剛出版)」など。

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前編では、「チーム学校」の実現における認知行動療法の有効性や認知行動療法が、子どもの課題解決だけでなく、教職員間の連携や学校組織全体の機能向上にも役立つことをお伝えしました。

 

後編では、教職員のみなさんが日々の学級運営に役立てられるよう、認知行動療法の考え方を具体的な事例を用いて解説します。


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学級集団は、同年齢の子どもたちが生活の大部分を過ごす、ある意味で特別な場所だと言えるでしょう。そこでは、友だちや教職員との関わりを通して、将来にわたって役立つ人間関係の築き方や、ストレスとの向き合い方について学ぶ機会がたくさんあります。

 

しかし、これらの機会が知識やスキルを身につける場となることもあれば、単なる「トラブル」として終わってしまうこともあるかもしれません。

 

本稿では学級集団での認知行動療法の活用例を紹介しながら、様々な出来事を子どもたちの成長の機会に変えるポイントについて考えていきます。

 

1.ストレスマネジメント教育による予防的支援

あるクラスでは、多くの子どもたちが失敗を恐れて、発表したり部活動や委員会活動にとりくんだりすることを避けていました。担任は、クラス全体に活気がなく、どこか暗い雰囲気だと感じていました。そこで、子どもたちの考え方や行動を「ストレス」という視点から整理し、具体的な解決策を探ろうと考えました。

 

一言で「ストレス」といっても、実際には、ストレスのきっかけとなる出来事である「ストレッサー」が、「認知(考え方)」や「コーピング(対処行動)」を介して、ストレス反応が生じることが分かっています。ですから、同じストレッサーを経験しても、いつも同じストレス反応が起こるわけではありません。自分を応援するような考え方(認知)や、効果的な対処行動(コーピング)に気づくことができると、ストレス反応は小さくなると考えられています。

 

 

担任は、これらの考え方を子どもたちに紹介するとともに、それぞれが経験しているストレッサーや認知、コーピングを整理する手助けをしました。

 

具体的には「部活でミスをした」というストレッサーとなる出来事を経験した場合に、「自分は何をやってもダメだ」と考えて、「部活を辞める」という対処をしてしまうと、ストレス反応は大きくなることが予測されます。その一方で、同じ出来事を経験していても、「試合じゃなくてよかった」「次は同じミスをしないように気をつけよう」という認知(考えかた)に気づくことができると、練習を一層頑張るようになり、ストレス反応は小さくなることが予測されます。

 

このようなことは、部活だけではなく、試験や対人関係にも応用することができます。これらのことを子どもたちに紹介することによって、子どもたちはストレッサーを避けるだけでなく、しっかりと乗り越える力を養うことができるようになりました。その後、子どもたちは徐々に、本当に避けるべきストレッサーと、乗り越えるべきストレッサーを区別して考えられるようになり、成功体験を積む機会も増え、結果的に明るいクラスにすることができました。

 

2. たたく行動の理解と対応

あるクラスで、一人の子どもが他の子どもをたたくことが数回ありました。当事者である子どもと周囲の子どもたちから話を聞くと、イライラした子どもがストレスを発散させるために他の子どもをたたいていることが分かりました。また、たたかれる子どもも、「抵抗したらますますひどくたたかれるかもしれない」と考えて、じっと耐えていることも分かりました。

 

認知行動療法では、「どのようなときに(きっかけとなる出来事)、何をしたら(行動)、どうなったか(結果として生じる気持ちや得られるもの)」といった枠組みに基づいて問題を整理します。今回の事例は、以下のように整理できます。

 

 

この図からわかるように、たたく子どもの行動が、たたかれる子どものきっかけとなっており、また、たたかれる子どもの行動が、たたく子どもの結果に影響していると考えることができます。

 

このような整理に基づけば、たたく子どもに対しては、次の2つの側面から関わることが考えられます。

  • ①イライラしないための具体的な方法を身につける

②たたく以外のストレス発散方法を見つける

 

①についても②についても、それが学校なのか家庭なのか、授業中なのか休み時間なのか、様々な状況に合わせて、複数の選択肢を用意するように関わります。子どもの理解度に応じて、教職員が具体的なアドバイスをすることもありますが、最終的な決定は子どもに任せます。

 

一方、たたかれる子どもに対しても、「たたかれる子どもにも非がある」という考え方ではなく、広く「困ったときの対処法を増やす」ことをねらいとして、次の観点から具体的な作戦を立てていきます。

 

  • ①嫌な場面に遭遇しないためにどうしたらいいか

②嫌な場面に遭遇してしまったらどうしたらいいか

 

こうすることによって、今回の問題が解決した後でも、似たように嫌なことが生じたときに対処できる力を養っていきます。さらに、周囲の子どもたちにも、このような場面を見た場合に、どのような行動を選択すべきか考えさせることも良いでしょう。

 

このように捉えると、これまで「生徒指導」の範疇で「やめさせる」ことを目的として対応していたような状況も、実際には、適切な対処方法を「考えさせる」「身につけさせる」ことを目的として対応すべき事案であったことが分かります。もちろん、しっかりと「悪いこと」として教えることも必要ですが、その上で、「こうするべき」といった具体的な行動を習得するところまで支援をする必要があります。

 

3. まとめ

ご紹介した2つの事例は、小学生にも、中学生にも、高校生にも、同じ枠組みで整理をし、同じように対応することが可能です。特に子どもが中心となって生じる問題のほとんどは、適切な対処方法を学ぶチャンスと捉えることもできるでしょう。もちろん、様々な機関の協力を得る必要がある事案もありますが、できる限り初期の段階で対応することによって、子どもにとっての成長の機会とすることが可能になると期待されます。

 

《参考文献》

杉山智風・小関俊祐 2025 『小中高をシームレスにつなぐ ストレスマネジメント教育プログラム』(金子書房)

 

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