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- 【識者の視点⑤前編】教職員として長期休暇明けの子どもとどうかかわっていくか〜メンタルケアの土台となるポリヴェーガル理論〜
【識者の視点⑤前編】教職員として長期休暇明けの子どもとどうかかわっていくか〜メンタルケアの土台となるポリヴェーガル理論〜
福島 美由紀(ふくしま・みゆき )
スクールカウンセラーとして約20年間、小中高等学校で勤務。看護学校2校の非常勤講師として「カウンセリング理論」「メンタルヘルスマネージメント」の講義を担当。スクールカウンセリングでは、不登校、非行、いじめ、友人問題、発達障害のほか、育児不安や家庭の問題など、さまざまな悩みに対応。子どもや保護者の悩みを聞くだけでなく、教職員の相談、研修や講演会、教育プログラムなども手掛ける。
教職員のみなさんは、長期休暇明けのこの時期、子どもたちの心身の状態に不安を感じておられるのではないでしょうか。本稿の前編では、長期休暇明けに子どもたちの心身に起こりうる変化と、その背景にある不登校や自傷・自殺といった深刻な問題についてお伝えします。これらの課題を単に「子どもが悪い」「保護者が悪い」と何かのせいにするのではなく、より深く理解するための視点として、心と体のつながり、そして様々な刺激(ストレス)から引き起こされる心身の「反射」について解説します。
後編では、この「反射」を読み解くための具体的なツールとして、ポリヴェーガル理論を使った3つのモードを詳しくご紹介し、日常で実践できるケアの方法や、子どもたちとのより良い関係構築に役立つヒントをお伝えします。
深刻化する長期休暇明けの子どもたちの課題
長い長期休暇明けは、子どもたちの心と体が大きく揺れ動きやすい、非常にリスキーな時期です。私のスクールカウンセラーとしての20年以上の経験から、この時期に相談が増える不登校の子どもたちには、いくつかの共通する特徴が見られます。
①体調が崩れやすい
頭痛や腹痛を訴えたり、朝起きられなかったりする子どもが非常に多いです。今、「起立性調節障害(OD)」と診断される子どもが増えています。不登校の子どもの4割がこの診断を受けているとも言われています。
②クラスになじめない
友だちとうまく遊べない、集団の中での居場所に不安を感じる子どももいます。
③感覚過敏がある
自閉スペクトラム症(ASD)の主な症状は社会コミュニケーションの問題だと考えられがちですが、実は第一の問題はこの感覚過敏だという研究もあります。こだわりもあるので、耳が敏感な子どもは、大勢が同時に話す教室では、辛くて集中できなかったりします。このような子どもたちには、環境を調整してあげることが必要です。
④何を考えているかわかりにくい
口数が少なく、感情をあまり表に出さない子どももいます。スクールカウンセラーのところに相談に来る場合は、ニーズがあって来てくれているので話してくれることが多いのですが、連れてこられるような場合だと、本当に固まってしまって話してくれない場合もあります。
⑤パニックになる
特別支援に携わる教職員の方はたくさん出会っておられますが、一般的な教職員の方にはあまり馴染みがないかもしれません。小学校ではパニックになる子どもがたくさんいます。こういった子どもには、落ち着くまで待つことが重要です。さらにはパニックにならない工夫が必要になります。
⑥反抗的・暴力的
中学校に多いですが、昔よりは減っていたものの、最近また少し増えているように感じます。小学校の学級崩壊も時々見受けられます。
⑦家庭が複雑
保護者との関係が難しく、家庭内に安心感がない子どもです。福祉との連携が必要になります。
不登校となるには、やはりそれぞれ理由があって、その要因にアプローチしていく必要があります。
自傷や自殺という「生きるためのサイン」
長期休暇明けは、子どもたちの命にかかわる問題も増加します。小中高生の自殺者の年次別推移を見ると、全体的に自殺者は減っているにもかかわらず、子どもの自殺は増え続けています。特に、中高生の女子の自殺率が急上昇しており、これは見過ごすことのできない現実です。

9月1日問題という言葉がありますが、実際は9月全体で自殺者が増える傾向にあります。6月も多く、ゴールデンウィーク明けに疲れてしまうことが要因と考えられます。長期休暇明けは心も体もコントロールしにくくなるため、非常にリスキーな時期なのです。
ここで、自傷(リストカット)と自殺の大きな違いについて説明します。
自傷は、死にたくてやるのではありません。むしろ、生きたくてやるのです。生き延びるために、一時的に苦痛を緩和する手段として行われます。心が辛いので、「まだ体が痛い方が楽だ」「一瞬痛いけれどもスッキリする」と感じる子どもが非常に多いです。男の子も時々いますが、圧倒的に女の子が多いかなと思います。最近は、友だちが「スッキリするよ」と教えてくれてリストカットをするケースも増えています。

リストカットは、赤い血を見るとドキッとするので、興奮状態になります。脳内麻薬が出てくる「ランナーズハイ」と同じような脳の仕組みで、心地よさが得られ、癖になっていくんです。この癖はアディクション、つまり「依存症」とほぼ同じで、「リストカットはくせになる」と考える人も8割にのぼるそうです。
一方、自殺は、唯一の最終的な解決策だと考え、他の選択肢が見えなくなってしまう状態です。アメリカの心理学者であるエドウィン・シュナイドマンが「心理的視野狭窄」と名付けたように、死ぬことしか解決方法がないと思い込んでしまうのです。
そして、残念ながら、自傷は自殺に繋がるリスクがあります。私の経験した自殺ケースの半分以上は、自傷行為をされていた子どもたちでした。「リストカットでは死なない」という考えは危険です。癖になっていくうちに、深く切ってしまうこともあります。無意識に死ぬリスクがあるため、子どもたちに「リストカットはやめなさい」とただ叱るのではなく、その背景にある心の痛みに丁寧に寄り添ってあげることが大切です。

困った行動は「反射」として捉える
なぜ子どもたちは、自傷や不登校といった行動をとるのでしょうか?その背景には、何かの出来事によって生じた心の傷、つまりトラウマが関係していることがあります。トラウマは、人格の問題ではありません。それは、心身が自分を守るために起こす「反射」として現れます。これは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴をまとめたものですが、大きく2つの反射が見られます。
一つは、「過覚醒と再体験」です。びっくりしたり、些細なことに敏感になったり、怒りっぽくなったりします。これを赤で表現しています。もう一つは、「麻痺・解離と抑うつ」です。記憶が飛んでしまったり、体が固まってしまったりします。これを青で表現しています。
どちらの反射も、心身がこれ以上傷つかないように、自分を守るために起こるものです。乱暴な行動をとったり、引きこもってしまったりする子どもたちは、トラウマが解消できずに、こうした反射的な状態にあるのかもしれません。

私たちは、ついこうした行動を「子どもが悪い」「保護者のしつけが悪い」と、人格や環境の問題として捉えがちです。しかし、お伝えしたいのは、子どもたちの困った行動を「人格」ではなく「心身の反射」として理解するという視点です。この視点を持つことで、私たちは子どもたちを責めることなく、より適切な対応をめざすことができます。
この「反射」をより深く理解するために、後編では、この反射を読み解くための具体的なツールであるポリヴェーガル理論を使った「ポリ語」について詳しくお話しします。
