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2025/06/30 教育関連記事

次期学習指導要領の改定に向けて 教育現場からの切実な提言相次ぐシンポジウム

中央教育審議会で次期学習指導要領についての議論が進む中、東京学芸大学特別支援教育・教育臨床サポートセンターは2025年6月21日、「学習指導要領改訂にどう向き合うか」と題した公開シンポジウムを開催した。

 

元小学校教諭で歴史研究者の平山裕人氏による基調講演に続き、現役小学校教諭の水野佐知子氏、町田市議会議員の笹倉みどり氏、そして平山氏がパネリストとして登壇。現行の教育システムが抱える問題点を具体的に指摘し、大胆な改革を求める声が相次いだ。

 

 

「公教育は限界」不登校激増の背景にある過重な学習負担

 

基調講演に登壇した平山裕人氏は、近年急増する不登校児童生徒の現状に対し、強い危機感をにじませた。

「小学校ではこの10年で6倍、中学校では約2.7倍に増えています」と現状を数字で示したうえで、会場に集まった教育関係者や学生に問いかけた。

「皆さん、公教育はすでに限界に来ていると感じませんか。不登校の数は年々増え続けている。私はもう、限界だと思っています」

教育現場の疲弊が看過できない段階に達しているとの認識を伝えた。

元小学校教諭で歴史研究者の平山裕人氏

 

平山氏は、その原因として、「授業時間が膨大で、カリキュラムがとにかく多い」こと、そして「教育委員会から来る膨大な数の指示」による現場の混乱を挙げた。特に、現在全国的に行われている「観点別評価」に対しては、「誰も分からないのに、分かったふりをして日本中でやっている」と痛烈に批判。客観的な評価が不可能であるにもかかわらず、教職員が市販テストや課題提出状況で評価せざるを得ない現状を問題視した。また、タブレット端末の一律導入についても、「どこに必要で、どこに必要ないのか、どのような指導が大事なのかを示されないまま、『とにかくやれ』と言われている」と述べ、教職員の負担増と子どもの学びの質の低下につながっているとの見方を示した。

 

さらに平山氏は、自身が提唱する「小学校学習ガイドライン(平山版)」の構想を提示した。このガイドラインは、人類の基層文化(体育・図工・音楽・家庭科)、基礎学力(日本語・算数)、科学(生活科・理科・社会科)、そして新しい環境を創る学習(総合学習・自治的諸活動)の4つの柱で構成される。現行の教育が「文明」社会の産物であるのに対し、図工や音楽、家庭科、体育は「文明以前からの人類の生活や表現にもとがあった」とし、これらの教科が「人類としての基層」を学ぶものだと位置づけた。

 

漢字学習については、現在の習得量が多すぎると指摘し、「小学校の漢字を26%削減する」案を提示した。1年生で象形文字を中心に50字程度、2~6年生で各140字程度に絞り込む具体的な試案を示し、学ぶ学年の発達段階や他教科との整合性を考慮すべきだと強調した。小学校の英語教育についても、「本来、小学校では扱えない学びを『教科』にするために、多くの異論・疑問を無視して、ゴリ押しをして作られた新教科だ」と批判。日本語と英語の文法構造の違いに注目し、小学校段階では簡単な英会話と基本的な文字や文の構造の理解に絞り込むべきだと主張した。

 

講演の終盤、平山氏は不登校増加の背景にある過剰な授業時数や画一的な評価、タブレットの強制導入などが、子どもたちの学ぶ意欲や教職員の情熱を奪っていると指摘し、「この状況をおかしいと思わなければいけない」と、社会全体で教育を変革する運動の必要性を訴え、基調講演を締めくくった。

 

疲弊する学校現場 過密なカリキュラムと教員の多忙

 

シンポジウムでは、教育現場と行政の最前線から具体的な課題が提示された。

 

鎌倉市立小学校教諭の水野佐知子氏は、現役教職員としての立場から、子どもたちの学校生活の過密さに焦点を当てた。年間の標準授業時数が1015時間(週29時間)に及ぶ現状に対し、「子どもの下校時刻は私の学校では3時半。その後習い事に出かけたりするので、放課後遊ぶ時間というのがなかなかとれない状況だ」と述べ、子どもたちの自由時間の不足を訴えた。教職員側も、定時までの業務時間が限られ、「結局授業準備や会議資料つくり、保護者対応などの自分の仕事は時間外に行うことになってしまい、超過勤務が常態化している」と多忙な実態を明らかにした。

 

鎌倉市立小学校教諭の水野佐知子氏

 

また、水野氏は、「なんの検証もないままに教科と領域の数は増え、それに伴って授業時数も増えてきた」と、安易な「○○教育」の導入が現場を疲弊させていると指摘。特に小学校における外国語教育については、「早期導入によって『外国語嫌い』も早まってしまっているように感じている」と、かえって子どもの学習意欲を削いでいる可能性を示唆した。

 

近年導入が進む小学校の教科担任制についても、水野氏は警鐘を鳴らした。教科担任制は教材研究の負担軽減につながる一方で、「時間割がかなり固定化されてしまうために、いろいろな融通がきかない」と述べ、子どもたちの疲労度や様子に応じた柔軟な授業運営が困難になっていると説明した。

 

「主体的に学習に取り組む態度」を評価する3観点評価についても、「子どもたちの内面にある目に見えないものをどのように評価するのか大きな問題だ」とし、現場ではノートや課題提出状況といった表面的なもので判断せざるを得ない実態を語った。このような窮屈な学校環境が、子どもたちの不登校数の急増につながっていると指摘。いわゆる「不登校特例校」の存在を挙げ、その柔軟なカリキュラム(鎌倉市の場合は総授業時数770時間)に触れ、「このような不登校特例校のカリキュラムが、子どもにゆとりがあって、安心して通うことができるものだということならば、なぜ他の学校もそうしないのか」と、通常の学校教育のあり方を問い直す必要性を強く訴えた。

 

地方議員の視点 家庭と地域から教育を変える

 

町田市議会議員の笹倉みどり氏は、3人の子どもの保護者としての経験と、地方議員としての問題提起を行った。自身の子どもたちが経験してきた授業時数の変化を振り返り、「やたら帰りの時間遅いな」、「こんなに6時間ばっかりだったかな」と疑問は感じつつも、「そういうもの」だと思ってしまっていたかつての自身の問題意識の低さを告白。多くの保護者も現状をそういうものだと諦めている実態を浮き彫りにした。

 

笹倉氏は、町田市議会で標準時数について質問した際、教職員経験者への調査結果も紹介した。標準時数は上回っても下回ってもよいという基本に立ち返り、「子どもにとってどうなのかを第一に考え、教職員の負担軽減のためにも、現場の声を踏まえた適切な標準時数、運用の方法だけでなく、時数そのものについても考えるべき」と自身の見解を述べた。

 

町田市議会議員の笹倉みどり氏

 

さらに、町田市に2025年4月に開校した「分教室型学びの多様化学校」が、通常の学校よりも少ない910時間の年間授業時数で運営されていることに触れ 、「1日5時間授業というのは本当に理想だと思う。学びの多様化学校で、この授業時間数が可能であるならば、通常学校もそうしたらよい」と、全ての学校で授業時数削減の可能性を検討すべきだと主張した 。

 

笹倉氏は、子どもたちの時間が奪われている現状を強く批判し、「遊びは生きることそのもの、遊びこむ時間、何もしないでぼんやりする時間、自発的に始めたことに熱中する時間、この時間、環境を保障することはおとなの責務だ」と述べ、子どもの遊びの重要性を強調した。そして、「保護者としても、時代だからしょうがないではなく、立ち止まって目の前の子どもを見て、一緒に考えようという気持ちで質問した」と、保護者も教育問題に主体的に関わることの重要性を訴え、締めくくった。

 

「見捨てられている」子どもたち 学校を変える必要性

 

改めて平山氏が、自身の私塾に通う不登校の子どもたちの姿を語った。「みんなすごくかわいい。ただ、学校や教職員を困らせる行動ばかりしてしまう」と、問題行動を起こす背景には、学校で「見捨てられている」と感じる子どもたちの心の叫びがあることを示唆した。そして、復学した教え子に学校が楽しいかを尋ねた際、不登校の影響から「成績表がオール1だった」との返答があったとのエピソードを紹介。学校の画一的な評価が、子どもたちの自己肯定感を奪っている現実があると訴えた。

 

今回のシンポジウムを通じて、現行の学習指導要領や教育システムが、子どもたち、そして教職員双方に過大な負担を強いている実態が浮き彫りになった。参加者からは、学習内容の精選、授業時数の削減、評価方法の見直し、そして何よりも子どもたちの興味関心を尊重し、自ら学びを深められる環境の整備を求める声が強く上がった。

 

中教審での議論が進む中、教育現場からの切実な提言が、今後の学習指導要領改訂にどのように反映されるのか、注目される。

 

東京学芸大学特別支援教育・教育臨床サポートセンター教授の大森直樹氏(写真左)

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