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【イベントリポート⑤前編】「学校から出発する男女共同参画」—無意識のバイアスを乗り越え、ジェンダー平等の土壌を耕す
2026年1月24日、三重県内にて、日本教職員組合(日教組)第75次教育研究全国集会・特別分科会が開催された。「学校から出発する男女共同参画を」をテーマに掲げた本分科会には、全国から約400人の教職員が駆けつけ、会場は満席の熱気に包まれた。
開催地である三重県は、歴史や文化、食など豊かな魅力を持つ一方、都道府県別ジェンダーギャップ指数では、経済分野で46位(2025年時点)と課題を抱える地域でもある。社会全体のジェンダー平等実現にむけて、教育現場はいかなる役割を果たすべきか。三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」所長の石井由美さんによる講演「『フレンテみえ』からみえること」の内容を詳報する。
「ジェンダー」は絶対的なものではない
登壇した石井由美さんは、元小学校校長という経歴を持つ。2024年度より「フレンテみえ」の所長に就任し、県内各地で講演活動をおこなっている。「フレンテ(Frente)」とはスペイン語で「前向きに」を意味する言葉だ。石井さんは冒頭、男女共同参画の定義について触れ、「男女共同参画とジェンダー平等(Gender Equality)はほぼ同義である」と説明した。
そのうえで、私たちが普段意識する「性別」には二つの側面があると指摘する。一つは生物学的な性別(セックス)、もう一つは社会的・文化的な性別(ジェンダー)だ。
「ジェンダーとは、社会生活を営むなかで『男性はこうあるべき』『女性はこうあるべき』とつくられてきた像のことです。これは後からつくられたものですから、だれでも持っているものではありますが、絶対的なものではありません。時代や社会が変われば、変わっていくものです」
しかし、このジェンダー意識が、時として男女共同参画社会の実現を阻む要因となる。石井さんは、現状を理解するためのキーワードとして「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」、「ジェンダー・バイアス(性別による偏見)」、「固定的性別役割分担意識」の3つを挙げた。
「『男の子だから理系が得意』『女の子は気配り上手』といった思い込みは、知らず知らずのうちに私たちを縛っています。それが激しくなると偏見や差別につながり、『男は仕事、女は家庭』といった役割の決めつけに具体化されてしまうのです」
国際社会から取り残される日本の現状
続いて石井さんは、具体的なデータをもとに日本と三重県の現状を示した。日本国憲法の制定以降、男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法の施行など、法整備は着実にすすめられてきた。国際的にもSDGs(持続可能な開発目標)においてジェンダー平等が掲げられ、「ジェンダー主流化」の流れが加速している。

しかし、現実の数字は厳しい。2025年、世界経済フォーラムが公表するジェンダーギャップ指数において、日本は146か国中118位と低迷している。
「女性の給与は男性の77.5%、衆議院議員に占める女性割合は15.7%、部長職相当の女性管理職はわずか8.3%です。意思決定の場に女性が少なければ、女性としての視点は社会に反映されにくくなります」
家庭内の役割分担にも偏りは根強い。県民意識調査によれば、「家事はほとんど妻がしている・妻が中心」との回答は8割を超え、育児についても6割以上が妻中心だという。「男性の育児休業制度などが整備され、少し改善されてきたとはいえ、依然として女性の負担が重いのが実情です」と石井さんは警鐘を鳴らす。
学校現場に潜む「隠れたカリキュラム」
教育現場に視点を移すと、そこには社会構造の縮図ともいえる課題が見えてくる。石井さんが示したデータからは、校種などの教育段階が上がるほど女性教員の割合が低下し、管理職における女性比率も著しく低い実態が明らかになった。
「中学校、高校の校長職における女性割合は非常に低い。組織に変化をもたらすには3割のマイノリティが必要(クリティカル・マス)と言われますが、そこにはまだ遠いのが現状です」
さらに、教員の働き方そのものがジェンダー不平等を助長している可能性も指摘された。男性教員は在校等時間が長く、女性教員は持ち帰り時間が長いというデータがある。これは、女性教員が家事・育児などの家庭役割を担わざるを得ないため、学校に残れず仕事を家に持ち帰っている実態を示唆している。
「子どもたちは、その姿を毎日見ています。『男性は遅くまで職場で働き、女性はケア役割を担う』という結びつきを、教職員の働き方を通じて学んでしまっているかもしれないのです」
ランドセル選びに表れる「おとなのバイアス」
石井さんは、子どもたちが抱くジェンダー観の形成過程について、身近な例を挙げて語った。その象徴がランドセルだ。入学前のアンケートでは、男の子の好きな色として青以外にも赤や緑が上位に入る。しかし、実際の購入データを見ると、男の子の66%が「黒系」を選択しているという。


「もし男の子が『赤がいい』と言ったとき、保護者や祖父母はどう反応するでしょうか。『赤は女の子の色だ』というおとなの思い込みが、子どもの選択肢を狭めてしまっているのではないでしょうか。戦隊ヒーローのリーダーは赤ですし、スポーツチームのユニフォームにも赤は多い。男の子が赤を持つことは決しておかしくないのに、ランドセルとなるとバイアスが働いてしまうのです」
高校生を対象とした調査でも、女子には「かわいい・専業主婦」、男子には「かっこいい・大黒柱」といったステレオタイプなイメージが定着していることがわかっている。こうした意識はどこで植え付けられるのか。調査によれば、ジェンダーに基づく発言を受けた場所として最も多かったのが「学校」であり、次いで「家庭」だった。
「『重いものを運ぶのは男の子ね』『女の子なんだからおしとやかに』。こうした何気ない言葉の積み重ねが、子どもたちの可能性を縛っています」
進路選択への影響も深刻だ。国際的な調査では理系科目の能力に男女差は見られないにもかかわらず、「数学や理科は男子が得意」という思い込みを持つ女子生徒は約半数にのぼる。
「『女の子だから文系のほうが就職しやすい』といった保護者や教員のアドバイスが、本来持っている能力の発揮を阻害している可能性があります。身近に女性の数学教員や研究者が少ないという環境要因も、バイアスを強化している一因でしょう」
自分の中の「当たり前」を問い直す
では、学校から変えていくために何ができるのか。石井さんは、教職員一人ひとりが意識を変革するための具体的な視点を提示した。
第一に、教職員自身の働き方と暮らし方を見直すこと。第二に、リーダーシップの多様性を見せること。「女性教員がリーダーシップを発揮する場面や、校務分掌の割り振りをジェンダーの視点で見直すことが必要です」。第三に、子どもへの声かけを振り返ること。「『男の子だから』『女の子だから』という言葉や、名簿の男女別順などをやめるだけでも意識は変わります」。そして第四に、保護者や地域を巻き込むこと。「学校で学んでも、家庭で否定されれば子どもは混乱します。保護者と共に考えていく姿勢が不可欠です」。
卒業式で校長(男性)の補佐をするのが女性教員であったり、調理実習は女子・力仕事は男子といった役割固定化がなされていたりする「日常の景色」を、意識的に変えていく必要があると石井さんは強調する。
講演の結びとして、石井さんは各国の閣僚が並ぶ集合写真を示した。女性が半数以上を占める国と、男性ばかりの日本。
「女性が社会の決定権を持つ景色を見て育つか、そうでないか。それによって子どもたちの意識は大きく異なります。大切なのは、人と比べず、自分で考え、自分で決めること。それが社会を変える力(エンパワーメント)になります」
「The Personal is Political(個人的なことは社会的なこと)」——石井さんはフェミニズムの標語を引用し、会場にこう呼びかけた。
「私たちが感じる『もやもや』は、個人の問題ではなく社会構造の問題です。お互いの違いを認め合い、だれもが自分らしく生きられる未来をつくるために、学校から出発していきましょう」
不登校や長時間労働など課題が山積する教育現場において、ジェンダー平等は「後回し」にされがちなテーマかもしれない。しかし、子どもたちが自分らしく生きる力を育むためには、まず学校とおとなたちが自らの「無意識の鎖」を解き放つ必要がある。石井さんの講演は、その第一歩をふみだすための勇気と視座を与えるものであった。

これを受け、後半のプログラムでは、学校現場、幼児教育、政治、人権活動の最前線に立つ5人のパネリストによるシンポジウムが行われた。後編の記事では、会場全体を巻き込んだ白熱の討論の様子をお伝えする。
(後編へ続く)
