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2026/03/25 教育関連記事

【イベントリポート⑤後編】「学校はジェンダーバイアス再生産の場か?」—問いかけから始まった、教職員たちの自己変革

 

2026年1月24日に開催された日教組第75次教育研究全国集会・特別分科会。前編で紹介した石井由美さん(三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」所長)の講演を受け、後半は「学校から出発する男女共同参画を」をテーマにしたシンポジウムが開催された。

 

登壇したのは、幼稚園・小学校・高校の教員、人権啓発活をする団体の職員、そして国会議員という多様なバックグラウンドを持つ5人のシンポジスト。会場の約400人の参加者に対し、スマートフォンを使ったリアルタイムアンケートや、色画用紙を使った意思表示を交えながら、学校教育に潜む「無意識のバイアス」をあぶり出し、変革への道筋を探った。


 

7割の教職員が「YES」と回答

「学校はジェンダーバイアスの再生産の場」

コーディネーターを務めた三重県教職員組合の山門真中央執行委員長は、冒頭、自身の経験を交えて会場に問いかけた。

 

「方言や口癖が子どもにうつるように、私たち教職員の一つひとつの言動は、意図せずとも子どもたちに影響を与えています。では、学校はジェンダーバイアスの再生産の場となっているのでしょうか?」

 

 

会場のスクリーンに映し出されたアンケートの結果は、参加者の70%が「YES」との回答。この数字は、多くの教職員が「自分たちの職場や教育活動が、知らず知らずのうちに性別による決めつけを子どもたちに刷り込んでいるかもしれない」という強い危機感を持っていることを示している。この共通認識を土台に、各シンポジストからの現状報告と提言が始まった。

 

 

それぞれの現場から見える「壁」と「違和感」

 

「男性保育者はマイノリティ」

三重県で幼稚園教員として働く三輪我人さんは、自身が男性であることで直面したバイアスについて語った。

 

「採用試験を受ける際、『男性なのにこの仕事を選んだ理由は?』と聞かれるから対策が必要だと言われました。『男性なのに』という言葉への違和感は今も残っています」

 

三輪さんは、園舎の改修時に設置された「先生のお部屋」の看板に、エプロンをつけた女性のイラストが描かれていたエピソードを紹介。また、園で子ども同士のトラブルが発生した際の保護者対応において「相手が男の子か女の子か」で対応を変えることを求められることなど、幼児教育の現場にも根強い「男らしさ・女らしさ」の圧力があることを指摘した。

 

「女の子だから赤」への抵抗

公益財団法人反差別・人権研究所みえ」の本江優子事務局次長は、自身の子ども時代の体験を振り返った。

 

「ランドセルは黒がよかったのに、『女の子は赤だから』と決めつけられ、6年間、嫌いな赤を背負い続けました。それが一番強く感じたジェンダーバイアスです」

 

企業研修の現場では、管理職研修が「スーツを着たおじさんたち」で埋め尽くされている現状に触れ、意思決定層への女性参画の遅れが社会全体の課題であることを強調した。

 

多文化共生の現場から

三重県内の公立高校で、外国にルーツがある生徒たちと日々むき合っている教員の和田馨さんは、異なる文化背景を持つ生徒たちの姿を紹介した。

 

「イスラム教徒の生徒たちの中には、父親の権限が絶対的であったり、女性はヒジャブを着用したりといった、宗教由来のジェンダー観をもつ子もいます。そうした中で、『マララ・ユスフザイ』さんの生き方を教材として扱い、生徒たちがどう受け止めるか。多文化共生の中でのジェンダー教育の難しさと可能性を感じています」

 

政治の世界にある「5つの壁」

元中学校教員であり、現在は参議院議員を務める小島智子さんは、政治分野における女性の少なさに言及した。

 

「選挙に出る女性には『子どもはどうするの?』と聞かれますが、男性には聞かれません。逆に男性候補者の妻は、夫の隣で頭を下げることを求められる。これもバイアスです」

 

小島さんは、女性が選挙に出る際には「意思決定・候補者になること・選挙運動・両立・継続」という「5つの壁」があると指摘。特に国会議員の場合、妊娠・出産・介護を支える制度が不十分であり、出産が「事故」扱いされる現状を変える必要があると訴えた。

 

無意識の言葉がけに気づく

三重県内の公立小学校で教員として働く伊藤真貴さんは、自身の実践の中での「気づき」を率直に語った。

 

「子どもたち一人ひとりに声をかけようと意識していたんですが、ある時、女の子には『かわいいね』、男の子には『かっこいいね』と言ってしまっている自分に気づきました。長年、ジェンダーについて考えてきたはずの私でも、無意識にやってしまっていたんです」

 

それ以来、「似合ってるね」「その服どうしたの?」といった言葉に変えるよう努めているという伊藤さんの発言は、多くの参加者の共感を呼んだ。

 

 

会場を巻き込んだ「超アナログ」アンケート

 

シンポジウムの中盤では、色画用紙(オレンジ=YES、白=NO)を使った会場アンケートが行われた。 「男子は掃除をさぼりがち?」「将来の夢がお婿さんは変?」「男子が泣くのは恥ずかしい?」といった質問に対し、参加者が一斉に紙を掲げる。特に盛り上がったのは、「年配の女性が必要以上に敬語を使うことが多い」という質問に対し、多くのYES(オレンジ)が挙がった場面だ。

 

コーディネーターの山門さんの「男性はぶっきらぼうに対応するイメージがあるのでしょうか」というコメントや、伊藤さんの「テレビドラマを見ておとなになったら敬語を使えるようになると思っていたが現実は違った」というエピソードに、会場からは笑いと納得の声が漏れた。

 

 

バイアス解消へ、明日からできること

 

後半の討論では、「ジェンダーバイアス解消のために何をするか」をテーマに、具体的な提言がなされた。

 

「バイアスはある」という前提に立つ(和田さん)

「差別やバイアスはなくならないかもしれない。でも、『ある』という前提に立ち、『それはおかしい』と抗い続けることが大事です。自分の中にもバイアスはあると自覚し、アップデートし続ける姿勢が必要です」

 

社会を知り、弱さを共有する(小島さん)

「学校を一歩出れば、離婚や貧困などジェンダーに起因する問題が溢れています。教員自身が社会を知り、ジェンダーの問題で悩み、七転八倒する姿を子どもたちに見せることこそが、生きた教育になるはずです」

 

「遊び」の中で対話する(三輪さん)

「子どもは素直に疑問を口にします。『なんで男の子がスカート履くの?』と聞かれた時、ごまかさずに『なんでそう思ったの?』と問い返す。遊びを通しての信頼関係があるからこそ、そんな対話ができます」

 

「おかしい」と言える仲間づくり(本江さん)

「職員室で、同僚の発言に対して『それバイアスじゃない?』と指摘し合える環境はまだ少ない。おとなも間違えます。それを互いに正し合える仲間づくりが、学校を変える第一歩です」

 

コミュニケーションで「更新」を楽しむ(伊藤さん)

「差別はコミュニケーションで広まりますが、それに抗うのもコミュニケーションです。子どもとの対話で自分の価値観が崩され、アップデートされていくことを『ちょっといいやん』と楽しむ。それが人権教育の醍醐味だと思います」

 

「やってみよう」変化へのエール

シンポジウムの最後、フロアからは「ピンクが好きな男の子を特別視するのではなく、『どっちでもいいじゃん』と背中を押せる空気をつくりたい」「万博のトイレ表示から子どもたちが学んだように、環境を変えることも大事」といった前むきな意見が次々と上がった。

 

 

小島さんはまとめとして、「女性議員がゼロの議会もまだ多い中、女性は社会において最大のマイノリティです。教職員組合の女性部などは、そうしたマイノリティの課題を社会につなげる窓口になってもらいたい」と期待を寄せた。

 

コーディネーターの山門さんは、44歳で現役復帰したアメリカンフットボール選手、フィリップ・リバースの言葉を引用して会を締めくくった。

 

 

「安全な選択肢は挑戦しないことかもしれない。でも、もう一つの選択肢は『やってみよう』『どうなるか試してみよう』という心意気だ」

 

学校という場所は、長年の慣習や「こうあるべき」という規範が色濃く残る場所かもしれない。しかし、この日のシンポジウムに参加した約400人の教職員たちは、自らの中にあるバイアスとむき合い、「やってみよう」という心意気を持ち帰ったはずだ。性別にかかわらず、だれもが自分らしく生きられる社会へ。その変化の芽は、確かな熱量を持って、三重の地から全国の教育現場へと広がっていく。

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