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2025/11/05 教育関連記事

TALIS2024解説(前編)/仕事時間は依然最長、OECD調査が示す日本の教育現場のリアル

2025年10月7日、OECD(経済協力開発機構)が実施した国際教員指導環境調査(TALIS)2024の結果が公表されました。本調査は、教員や校長の勤務環境、指導状況などを国際比較可能なデータで示す貴重な資料であり、日本の教育現場の現状と課題を客観的に把握する上で非常に重要です。

 

一部の業務時間には改善が見られ、教育改革の進展も示唆していますが、今回の調査結果は、日本の教員が抱える「長時間労働」という構造的な問題が依然として参加国中で最長であるという厳しい現実を突きつけています。

 

本稿の前編では、特に「仕事時間」「教育資源の不足感」「ストレス」という、教員のウェルビーイングに直結する喫緊の課題に焦点を当てて解説します。

 


 

1.改善傾向も国際比較では「最長」のままの仕事時間

日本の教員の1週間当たりの仕事時間(常勤)は、前回2018年調査と比べて小中学校ともに約4時間の減少が見られました。これは、働き方改革の一定の成果と捉えることができます。しかしながら、その合計時間は、小学校で52.1時間、中学校で55.1時間となり、依然として参加国中最長という、極めて厳しい実態が浮き彫りになりました。

 

日本の教員の仕事時間の内訳を見ると、「授業」そのものの時間は国際平均よりも短いものの、「授業準備等」「事務業務」「課外活動」に費やす時間が国際平均よりも長いという特徴が継続しています。

 

例えば、中学校のデータで国際平均と比較すると、授業時間が国際平均より約4.9時間少ないにもかかわらず、合計仕事時間は約14.1時間も長くなっています。この差こそが、授業外の業務の多さが日本の教員の負担となっている根拠です。

 

 

2.業務時間の減少と裏腹に高まる「ストレス」の実態

仕事時間が減少したにもかかわらず、教員が感じているストレスの要因は増加傾向にあります。

 

本調査の分析では、「教員への要求」が教員の「専門的成果」、特に「授業の目的達成能力」に影響を及ぼすという構造的な問題が深く掘り下げられています。一般に、ストレス源として強く報告される要求は、指導の質や成果を低下させる傾向にあります。

 

特に、「多大な授業準備」「多すぎる授業数」「多すぎる採点業務」に加え、「多すぎる事務的業務」「保護者の懸念への対処」についてのストレスを「かなり感じる」又は「非常によく感じる」と回答した教員の割合が、小中学校ともに前回調査より増加しています。

 

この点について、国際的な回帰分析では、最も深刻な阻害要因は仕事量よりも「教室の規律維持の困難さ」に関連するストレスであることが示されていますが、日本の教員が日常的に直面し、ストレスとして報告している要因の中核は、業務量の問題として「管理業務が多すぎる」「教える内容が多すぎる(授業が多すぎる)」「採点等の業務が多すぎる」点です。

 

これらの業務負担は、国際的な知見で指摘される「規律維持の困難さ」とは別の次元で、教員の時間的・精神的資源を消耗させていると考えられます。

 

特筆すべきは、「多すぎる事務的業務」について、中学校教員の62.8%(前回52.5%)、小学校教員の66.0%(前回61.9%)がストレスを感じており、国際平均よりも高い水準にある点です。また、「保護者の懸念への対処」についても、中学校教員の56.4%(前回43.5%)、小学校教員の58.7%(前回47.6%)がストレスを感じており、これも国際平均より高い水準です。

 

これは、業務量が減ったとしても、残された業務の質的負担(精神的負担)が増している、または教員一人あたりの業務密度が高まっていることを示唆しています。

 

さらに、「改革や変化への対応が大変である」点(「変更される要件への対応」や「カリキュラムやプログラムの変更への対応」)も日本の教員にとって大きなストレス要因として報告されており、絶え間ない制度変更が現場に疲弊をもたらしている実態がうかがえます。

 

 

さらに、「教員の欠勤による追加的な業務」へのストレスも、小中学校ともに前回から大幅に増加しています。これは、教員不足や代替教員の確保の難しさを背景に、教員一人ひとりがより多くの負担を担わざるを得ない現状を反映しており、現場の「ゆとり」のなさを示すデータです。

 

 

3.教育環境に影響を与える「人」と「資源」の不足感

教員がストレスを感じる背景には、学校の教育資源の不足、特に「人」の不足が挙げられます。校長調査の結果から、「質の高い指導を行う上で妨げになっている」として、「教員の不足」「支援職員の不足」を感じる割合が国際平均よりも高く、特に小学校では教員の不足を感じる割合が前回調査(19.2%)から40.7%へと大幅に増加しています。

 

 

教員業務支援員などの支援スタッフの配置は進められていますが、現場が求める水準には達しておらず、支援職員の不足を感じる割合も中学校で47.1%(前回46.5%)、小学校で66.3%(前回60.4%)と、依然として高い水準にあります。

 

ICT等の設備については、「不足又は不適切」と回答した割合が大幅に減少し、国際平均よりも良い状況になりました。これはGIGAスクール構想の推進による大きな改善点ですが、人的資源の不足がその進展の障壁となるリスクを指摘しておくべきでしょう。

 

4.現場のやりがいとは対照的な「社会的評価」の低さ

このような厳しい環境にあるにもかかわらず、日本の教員は「教えることの面白さややりがいに満足している」という割合が国際平均より高く、教職への高い意欲を維持していることが分かりました。

 

一方で、教員の「社会的評価」については、依然として課題が残ります。「教員は児童/生徒に高く評価されている」と感じている割合は小学校教員の62.0%(国際平均79.6%)、「教員は保護者に高く評価されている」と感じている割合は小学校教員の49.8%(国際平均68.6%)と、国際平均を大きく下回っています。特に「教員はメディアに高く評価されている」と感じる割合は、小学校で9.8%、中学校で9.2%と、国際平均(小学校27.7%、中学校19.8%)と比べて極めて低い水準です。

 

 

教員が高いやりがいを感じているにもかかわらず、社会からの評価が低いと感じるこのギャップは、教職の魅力向上や、教員採用の確保の面で大きな障害となっています。

 

5.高まる仕事への満足度と雇用条件への不満

教員の仕事に対する満足度を見ると、「全体として業務に満足している」割合(小学校78.9%、中学校78.8%)は国際平均(中学校OECD平均89.4%)より低く、「現在の学校での自分の仕事の成果に満足している」割合は、小学校教員で57.1%(前回53.4%)、中学校教員で53.6%(前回49.0%)と、前回調査から増加しています。

 

 

さらに、特筆すべきは、日本の教員が、他の職業の同程度の教育を受けた人と比較して、仕事の満足度が統計的に有意に高いと報告されている点です。「教員の仕事満足度(他の職業との差)」のグラフが示すように、この満足度ギャップ(19.6%ポイント)は、参加国・地域の中で最も高い数値であり、日本の教員が教職という仕事自体の価値ややりがいを非常に高く評価していることを裏付けています。

 

一方で、給与を含む雇用条件への満足度には大きな課題が残ります。「給与に満足」している割合は、小学校教員で31.3%(国際平均39.1%)、中学校教員で28.6%(国際平均38.7%)と、国際平均を下回っています。また、「給与以外の雇用条件(福利厚生、勤務時間など)に満足」している割合も、小学校教員で42.1%(国際平均60.1%)、中学校教員で37.3%(国際平均68.4%)と、国際平均に比べて低い水準にあります。

 

この結果は、教員が仕事のやりがいは強く感じているものの、長時間労働という構造的な問題(勤務時間)や報酬といった、教員を支える労働環境に大きな不満を抱えていることを明確に示しています。

 

前編では、TALIS 2024が示した日本の教員の「長時間労働の継続」と、「事務業務や保護者対応、欠勤対応によるストレスの増加」という、厳しい勤務環境の実態をデータで再確認しました。これは、学校の指導体制の充実はもちろん教職員の定数改善や支援職員の大幅な増員といった、人的資源の抜本的な改善なくして解決し得ない構造的な問題です。

 

後編では、この厳しい環境下で教員が進めている「指導実践の進展」や、「専門的な学習への参加障壁」、そして教育のデジタル化の鍵となる「ICTとAIの活用実態」について、引き続きデータに基づいて解説します。

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