- TOP
- TALIS2024解説(後編)/「主体的・対話的で深い学び」の進展と新たな課題
TALIS2024解説(後編)/「主体的・対話的で深い学び」の進展と新たな課題
TALIS 2024解説記事の後編となる本稿では、前編で明らかになった厳しい勤務環境(長時間労働、高ストレス、資源不足)にありながらも、日本の教員がどのように日々の「指導実践」を進化させ、専門性を高めようとしているのか、そしてそこに立ちはだかる新たな課題をデータから読み解きます。
本調査結果は、日本の教員が高い「教えることへの意欲」を維持していること(前編で言及)を裏付けるように、「主体的・対話的で深い学び(探究的な学習)」の視点からの授業改善が着実に進んでいることを示しています。しかし、その進展の陰で、教員の成長を支える「専門的な学習」の機会が失われつつある現状も見えてきました。
1.授業実践の着実な進展 「探究的な学びへの転換」
「主体的・対話的で深い学び」に関連する指導実践について、日本の教員は着実な進展を見せています。
特に、「批判的に考える必要がある課題を提示する」という項目は、小学校で19.5%(前回11.6%)、中学校で24.2%(前回12.6%)と、小中学校ともに前回調査(2018年)から大幅に増加しました。また、「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」割合も増加しています。
さらに、「他の児童/生徒の主張についての質問や意見を言うよう児童/生徒を促す」実践の割合は、小中学校ともに、国際平均より高い水準です。教員自身の指導実践実施度に関する自己評価でも、「発問を工夫する」の割合が小中学校で増加しており、教員が自ら指導力の向上に努めている姿勢がうかがえます。
ただし、多くの項目で依然として国際平均を下回っており、「知識が役立つことを示すため、日常生活等の問題を引き合いに出す」といった、知識と実社会の関連づけを行う実践の割合は、国際平均より低い傾向が残っています。指導の質の更なる向上には、業務負担の軽減による授業準備や教材研究に割ける時間の確保が不可欠です。
2.専門的学習のジレンマ 「時間が割けない」の深刻化
教員が指導実践の質を高めていく上で不可欠な「専門的な学習」ですが、その参加を妨げる最大の障壁が明らかになりました。それは、前回調査に引き続き、そして国際平均よりも圧倒的に高い割合で教員が回答した「時間が割けない」という項目です。

「他にやるべきことややらなくてはならないことがあるため、時間が割けない」と回答した教員の割合は、小学校で82.8%(前回71.1%)、中学校で85.6%(前回67.1%)と、前回調査から大きく増加しており、長時間労働が教員の学びの機会を奪っているという深刻な実態を示しています。
一方で、前回調査と比べて「必要な要件を満たしていない」「費用が高すぎる」「雇用者からの支援がない」といった障壁を感じる割合は減少しました。これは、研修制度の改善や費用のサポート体制が整いつつあることを示唆しますが、それにもかかわらず「時間がない」という本質的な問題が、深刻な状況であることを示しています。教員の専門性の向上を支援するためには、まず「時間」を創出する環境整備が最優先にすすめられなければなりません。
3.進むICT活用とAIへの「期待」と「リスク」
ICTを活用した教育指導については、ポジティブな変化が見られます。校長調査ではICT等が「不足又は不適切」と回答した割合が大幅に減少し、教員調査でも「ICT等の利用による学習支援」が「かなり/非常によくできている」という自己評価が前回調査から約10%ポイント増加しました。

さらに、AI(人工知能)については、授業での使用率は国際平均よりも低いものの、日本の教員はAIに対して高い期待を抱いています。特に、「児童/生徒を個別にサポートするのを支援する」(小学校66.5%、中学校73.1%)や「教員が事務的業務を自動化するのに役立つ」(小学校79.1%、中学校73.1%)という項目で、国際平均よりも高い割合で有用性を感じています。

しかしながら、同時に「AIにより、児童/生徒の誤った認識を強める偏った見方を増大させる」というリスク認識も国際平均より高い水準にあり、日本の教員が、AIの導入と運用について慎重な姿勢を崩していないことが分かります。ICTやAIはあくまで学びのツールの一つであり、その弊害を理解しながら活用していくことが重要です。
4.協働性の低下と学校の変化への対応のジレンマ
教員同士の「協働性(同僚性)」については、厳しい結果が示されました。前回調査と比べて、「教員の相互信頼」の割合が、小中学校ともに参加国中で最も低下しています。また、「教職員が信念を共有」し、「お互い助け合う協力的な学校文化がある」と感じる割合も国際平均より低い水準にあります。

一方で、「特定の児童/生徒の学習の向上について議論する」割合は増加しており、個々の教員は協働の必要性を感じていますが、多忙さやストレスの増加が、学校全体の「組織としての連携」を難しくしていると考えられます。
また、学校の変化への対応についても、「変化の前に安定した期間が欲しい」(小学校50.8%、中学校44.3%)や「必要な資源がないのに変化のための取組をするよう求められる」(小学校35.7%、中学校30.7%)といった回答が国際平均より高い水準にあり、現場の教員が、十分な準備や資源なしに進められるトップダウンの改革に疲弊している現状を裏付けています。

後編では、日本の教員が「主体的・対話的で深い学び」へと指導実践を着実に進化させようと努力している一方で、その専門性を高めるための「時間」が圧倒的に不足しているというジレンマが明らかになりました。そして、この多忙さやストレスが、「教員の相互信頼」といった学校の組織的な強さを蝕んでいる可能性も示されました。
日本教職員組合としては、こうした調査結果をもとに教員の「働き方改革の深化」と「学びを保障する環境整備」を両輪で進めていくことの重要性を、改めて社会に発信していきます。
