弁護団コラム

JTU弁護団コラム(第2回) ハラスメントに関して

2020年07月10日

<事例>
私は、A教頭に生徒指導のことで相談をしたことをきっかけに、A教頭から個人的なメールを頻繁にもらったり、放課後に食事等に誘われたりするようになりました。A教頭に個人的なメールや食事の誘いは迷惑であることをやんわりと伝えたところ、その後、無視されたり、重要な事項を私にだけ伝達してもらえなかったり、といった嫌がらせを受けるようになりました。毎朝学校に行くのが辛いです。

<回答>
セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが問題となる事例です。学校現場の人間関係で同じような悩みに直面している方も少なくないと思われます。
セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントの問題点を整理した上で、具体的な対処方法について説明します。

1 セクシュアルハラスメントについて
「職場におけるセクシュアルハラスメント」とは、(1)性的な言動に対する労働者(非正規雇用や派遣の労働者も含みます。)の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシュアルハラスメント)と、(2)性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシュアルハラスメント)です(厚生労働省のセクシュアルハラスメント指針参照)。男女雇用機会均等法11条は、雇用主に対し、セクシュアルハラスメントによって労働者が労働条件につき不利益を受けたり就業環境が害されたりすることがないように必要な措置を講じる義務を定めています。

学校でも、「セクシュアルハラスメント」として、(1)性的な言動を受けた教職員の態度により処遇や評価等で不利益を与えたり、(2)性的な言動で学校の職場環境を不快にしたりすることが禁止されています。

性的な言動を行う加害者には、学校の管理職や同僚のみならず、生徒や保護者なども含まれますし、言動には、男性が女性に対して行うような異性間の言動だけではなく、同性間の言動が含まれる場合もあります。性的な言動が行われる場所としては、校内だけでなく、出張先や校外での懇親会(職務との関連性がある場合)なども含まれます。相手方の言動がセクシュアルハラスメントにあたるかどうかの判断は、言動を受けた教職員の主観を重視しつつも、個々のケースによって感じ方や状況には差があるため、平均的な教職員の感じ方を基準に行われています。

では、この事例では、どのように判断されるでしょうか。
A教頭の個人的なメールや食事等への誘いは、職場の人間関係を前提にしています。そこで、メールや誘いに性的な言動が含まれる場合には、相談者が拒んだことで重要事項を伝えないなどの不利益を相談者に与えたり、無視したりして相談者に不快な環境を作ったりした教頭の行為はセクシュアルハラスメントに該当する可能性が高いといえます。

2 パワーハラスメントについて
「職場におけるパワーハラスメント」とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものです(厚生労働省のパワーハラスメント指針参照)。労働施策総合推進法30条の2は、事業主に対し、パワーハラスメントへの適切な対応のために必要な措置を講じる義務を定めています。

学校でも「パワーハラスメント」は当然に禁止されています。優越的な関係にある相手方の言動がパワーハラスメントにあたるかどうかの判断は、客観的に業務上必要かつ相当な範囲内か否かがポイントになります。適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。

学校でのパワーハラスメントは、原則として管理職(校長や副校長、教頭)による言動が対象になりますが、同僚の教職員による言動でも、その人に業務上必要な知識や豊富な経験があり、協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合等は該当する可能性があります。なお、上記②や③の点は、受け止め方に個人差がありますので、言動を受けた者の主観に配慮しつつも、社会通念や平均的な教職員の感じ方を基準に判断されています。

では、この事例では、どのように判断されるでしょうか。
A教頭は、学校の管理職という優越的な地位にあります。その教頭が、個人的なメールを送りつけたり食事等に誘ったりと教職員の職務の範囲外の言動を繰り返した結果、これを拒否した教職員に対し業務上の不当な扱いを行って就業環境を害していますので、教頭の行為はパワーハラスメントに該当します。

3 ハラスメントの問題性と本事例の具体的な対処方法について
セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントにより、被害者である教職員が様々な不利益を被ったり、学校現場の環境が悪化したりすることは、重大な問題です。しかし、さらに大きな問題は、被害者の個人としての尊厳や人格が不当に傷つけられることにあります。ハラスメントによって対人恐怖症や適応障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など深刻な後遺症に苦しむ被害者も少なくありません。

そこで、男女雇用機会均等法は、セクシュアルハラスメントを防止するため、雇用主が雇用管理上必要な措置を講ずることを義務づけてきましたが、2020年6月からハラスメントの防止対策が強化されました。また、同じく6月に、パワーハラスメント対策も事業主の義務であることが労働施策総合推進法に明記されました。妊娠・出産等に関するマタニティハラスメントについても、同じような対策が取られています。

さて、この事例で、被害者である教職員は、A教頭のハラスメント行為に対して、どのような対処方法が考えられるでしょうか。

ハラスメントの被害にあったときに最も大事なことは、一人で抱え込まず、誰かに相談をすることです。時に被害者は自分にも落ち度があるのではないかとか、加害者を傷つけたくないとか考え込んでしまうこともありますが、この事例のようにA教頭による不快なハラスメント行為を拒むことは被害者として当然の行動ですし、A教頭が学校内で被害者に不当な扱いをすることはハラスメントの基準に照らして許される態度でありません。できる限り早く相談をして、A教頭の行為がハラスメントであることを確認し、具体的な対応を検討してください。

相談窓口は、学校内にも教育委員会にも設けられているはずです。管理職によるハラスメントのため校内の相談窓口が利用しにくい場合には、教育委員会の窓口を活用します。相談したことで不利益な取扱いをしてはならないとされていますし、プライバシー保護もされています。相談を受けた結果、学校設置者である教育委員会は、相談内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。

まず身近な同僚の意見を聞いてみたい場合や学校関係の相談窓口への相談に躊躇がある場合には、教職員組合や組合の分会に是非相談してください。このほか、日本教職員組合や教育文化総合研究所が共同で運営している「親と子と教職員の教育相談室」(電話03-3234-5799)への相談や、教育問題やハラスメントを専門とする弁護士への相談も、相談の第一歩として有益です。

ハラスメントの被害を受けた際には、可能な範囲で証拠を残しておくことも大切です。例えば、本事例の場合、A教頭との間でやり取りした電子メールのデータや音声の録音があれば信用性の高い証拠になります。無視等の嫌がらせについては、客観的な証拠を残すことは難しいかもしれませんが、メモや日記を書いたり、家族や友人にメールやSNSで報告・相談しておいたりすると当時の記録になります。もちろん、手元に証拠がないからといって、相談を断念する必要はありません。ぜひ、勇気を出して相談してみてください。

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