弁護団コラム

JTU弁護団コラム(第3回) 教職員の働き方改革~勤務時間~

2021年01月27日

<Q>
学校では新型コロナウイルス感染症予防の対応業務が加わって一段と多忙になっています。他方、地元自治体の教育委員会は、「時間外勤務が月45時間を超える教職員をゼロにする。」と宣言しました。私の学校では、この宣言に反する結果が予想されるため、校長が教員に対し、校内で教材研究を行う時間は業務外の「自己研鑽」の時間として「在校等時間」から除外して申告するように指示してきました。でも、教材研究は、授業を行うために必要なので腑に落ちません。感染症への対応で精神的にも厳しい毎日で、面倒なので校長の指示通りに申告する考えも浮かびますが、どのように対応すればよいのでしょうか。

<A>
校長は、正規の勤務時間外の教材研究の時間を「自己研鑽」の時間とし、「在校等時間」から除外して時間を計測する指示をしています。しかし、この校長の指示は、明らかな間違いで、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下「給特法」といいます。)第7条に基づく指針(いわゆる大臣告示であり、正確には、令和2年文部科学省告示第1号及び第101号「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」、以下「指針」といいます。)にも反しています。
まず、公立学校の教員の勤務時間に関する基本的な考え方を確認した上で、校長の指示にどのような問題があったのか、また、どのように対応したらよいかを一緒に考えてみましょう。

1 勤務時間に関する考え方
(1)「在校等時間」と「時間外在校等時間」
公立学校の教員の1日の「正規の勤務時間」は、通常7時間45分であり、この時間を超えると時間外勤務となります。また、時間外勤務を命じることができるのは、(1)①校外実習その他生徒の実習、②修学旅行その他学校の行事、③職員会議、及び④非常災害、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他止むを得ない場合に必要な業務(いわゆる「超勤限定4項目」)に従事する場合で、かつ(2)臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに法令上限定されています。
 
しかし、近年の各種調査によれば、教員の時間外勤務は常態化しており、超勤限定4項目以外の時間外業務が長時間行われている実態があります。このような教員の心身の健康を害するおそれが高く、給特法等の法令の趣旨に反する不適切な実態を改善するために、働き方改革の取組みを迅速かつ確実に行う必要があります。
重要な新たな取組みの一つとして、指針では、教員が校内に在校している時間と校外での業務の時間を合算し、「業務外の時間」等を控除したものを「在校等時間」と定義した上で、「在校等時間」から「正規の勤務時間」を除外したものを「時間外在校等時間」として、時間外勤務の上限規制を行うことになりました。
指針では、「時間外在校等時間」の上限の原則的な基準は、月45時間以内、年360時間以内とされています。ただし、上限規制は、教員の健康等に対する配慮から設けられたもので、本来教員の時間外勤務は超勤限定4項目のみの例外的なものですから、上限までの時間外勤務を無限定に認めるものではありません。

(2)「在校等時間」の考え方
「在校等時間」は、校内校外を問わず、教員が実際に学校教育活動に関する業務を行っている時間として「外形的に」把握することができる時間の総体を指します。「外形的に」把握するのですから、在校している時間については、何をしているかは問わずにすべての時間を「在校等時間」に含むのが基本であり、重要なポイントです。したがって、放課後の部活動等の時間も当然に「在校等時間」に含まれます。
他方で、教員が校内に在校していた場合でも、教員の自己申告で「業務外の時間」は除くことになっています。しかし、もとより多忙な教員が在校中に敢えて業務外のことを行うのは極めて稀だと想定されます。そこで、教員の在校中の時間は、基本的にすべて「在校等時間」に当たると判断してよいでしょう。

2 校長の指示の誤り
校長は、教材研究を「業務外」の自己研鑽とみなして、「在校等時間」から除外するように指示しています。指針では、除外する「業務外の時間」の例として「正規の勤務時間外に自らの判断に基づいて自らの力量を高めるために行う自己研鑽の時間」を挙げているため、教育委員会への時間外勤務の報告時間を削る目的で校長が「自己研鑽」を利用しようとしたと考えられます。しかし、校長の指示には2つの大きな問題点があります。

(1)校長は申告内容を指示していい?
第一の問題点は、校長が教員に対し「自己研鑽の時間」の申告内容を指示している手続的な誤りです。指針では、「自己研鑽の時間」を業務外の時間としていますが、在校中の「業務外の時間」の申告は、教員各自の自己申告に基づくことになっています。したがって、校長の指示は指針違反であり、また給特法の趣旨にも反しています。超勤限定4項目以外の業務が自己研鑽に該当するか否かを校長が判断し指示することは、裏を返せば自己研鑽以外の業務について指揮命令下に置くことにつながりますが、それは正規の勤務時間外に超勤限定4項目以外の業務を命じることができない給特法と相容れないからです。ですから、指針で教員の自己申告制とされたのは当然のことで、校長は「自己研鑽の時間」の申告内容を指示できないのです。

(2)「自己研鑽」とは?
第二の問題点は、校長が、在校中の教材研究を「自己研鑽」と判断したことです。そもそも教材研究が学校の授業準備に必要であることは言うまでもないことですから、業務外の「自己研鑽」には当たりません。文部科学省による指針に係るQ&A(以下「指針Q&A」といいます。)でも、教材研究が学校教育活動に関する業務に当たるとして、勤務時間外の教材研究の時間を「在校等時間」に含めることを確認しています。
なお、指針Q&Aでは、業務外の「自己研鑽の時間」として、教員が専門性や教養を高めるために学術書や専門書を読んだりする時間を例示しています。しかし、授業の教材研究や学級活動等の学校教育活動に関連して学術書や専門書等の文献や資料を読んだりすることは教員の業務にあたりますので、実際に校内で学術書や専門書を読んだりする時間が業務外の「自己研鑽」に該当する場合は少ないでしょう。指針Q&Aの例示も注意深く見る必要があります。

3 どのように対応したらよいか
(1)教材研究の時間を「在校等時間」から除外しない
以上のように、校長の指示は手続的にも内容的にも間違っています。教材研究の時間を「在校等時間」から除く必要はありません。

(2)校長との話し合い・交渉
ただし、校長から今後も同様の指示をされるおそれがありますので、校長との話し合いや交渉が必要になると思われます。
これは学校全体の問題で、教職員全員にとっても重大な問題ですから、他の教職員とも一緒に交渉すべきでしょう。ただ、他の教職員に協力を求めることが難しいようでしたら、是非、単組・支部・分会に相談してください。
校長と交渉する際には、在校している時間については、何をしているかは問わずにすべて「在校等時間」に含まれるのが基本であること、教材研究の時間が「在校等時間」に含まれるのは当然であることを正しく理解してもらうことが重要です。校長には教員の勤務時間を適切な方法で把握する法令上の責任があり、各自の勤務時間や在校等時間を正確に記録して保管する義務もあります。もちろん校長には法令や条例・規則等に従う義務がありますので、給特法や指針を遵守しなければなりません。したがって、交渉では、法令上の義務違反を指摘したり指針との齟齬を指摘したりすることが有効です。なお、指針Q&Aは「校長等が虚偽の記録を残させるようなことがあった場合には、求められている責任を果たしているとは言えない上、状況によっては信用失墜行為として懲戒処分等の対象ともなり得る」と指摘しています。

4 最後に―勤務時間と在校等時間の正確な記録の重要性-
勤務時間と在校等時間の正確な記録は、教職員の働き方改革のために不可欠です。日本教職員組合の教育研究全国集会(全国教研)でも、時間外勤務時間の正確な記録が長時間勤務の有力な証拠となり、校長や教育委員会との間の時間外勤務時間の削減に関する交渉や(安全)衛生委員会等での業務削減の検討で効果を発揮したとの報告が多数存在します(日教組編『日本の教育』第65集~第69集所収の「第22分科会報告」を参照してください。)。また、過労を原因とする公務災害の認定の場面でも、長時間の勤務に関する正確な時間記録が重要なポイントになっています。

最近、校長や教育委員会から在校等時間の過少申告や自己研鑽による除外申告を指示されたという不適切事例の報道が散見されますが、法令や指針違反の不見識な指示であり、働き方の改善に逆行し許されません。働き方改革の目的である教職員の健康と福祉を確保し、子どもたちに適切な学校教育活動を行うためには、長時間勤務の実態を正確に把握した上で効果的な対策を迅速かつ的確に実施する必要があります。

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