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【識者の視点⑨】生成AIと教育の未来 ―ICT50年の歴史から問う「本来の意義」
黒田 恭史(くろだ・やすふみ 京都教育大学 教育学部教授)
京都教育大学教育学部数学科教授。小学校教員時代に行った豚を飼う実践が2008年に「ブタがいた教室」として映画化。16年より学生らとともに不登校の子どもや外国につながる子どものための多言語に対応した算数・数学動画コンテンツ制作を開始し、専用ホームページで無償公開している。著書に「動画でわかる算数の教え方」(明治図書)、「生成AIで算数・数学教育:明日の授業に使える25の実践例」(共立出版)などがある。
ICTの教育利用の歴史的経緯
2022年に生成AIの社会への普及が本格化して以来、様々な分野でのICTの活用に大きな変化が見られます。「これまで人が担ってきた仕事の大半は生成AIが肩代わりするようになり仕事というものがなくなる」や、「必要な情報や知識は生成AIがすぐさま提供してくれるので、記憶する、習得するといった学力は必要がなくなる」といった極端な考えも見られます。
しかし、歴史を紐解いてみますと、インターネットが社会に登場した時期も、学校のあり方や教育が大きく変わるといったことが提唱されてきました。とはいえ、子どもたちへのICTの教育への活用に際しては、心身が成長途上にある時期であることを踏まえた丁寧な議論と、慎重な検証が必要であるといったことが指摘されてきました。
日本では1977年に茨城県の竹園東小学校にパソコン(当時は、マイコン)が導入されて以降、約50年のICTの教育利用の歴史があります。どうしても新たな技術が登場しますと、その高揚感に浸ってしまい、バラ色の教育の未来を描いてしまいがちですが、現実はそういうわけにはいきません。むしろ、こうした時期にこそ50年の歴史を振り返り、地盤をしっかりと築いたうえで、生成AIを位置付けていく必要があると思います。
約50年のICTの教育利用の中で目指されてきたことは、「思考の内在化」「思考の外在化」「思考の並走化」「学習分析・支援」に大別されます。
「思考の内在化」とは、子どもが新たな概念・知識・技能を自らの思考の一部として取り込んで、繰り返しによる訓練などによって活動のスピードと精度を高めることです。
「思考の外在化」とは、子どもが自らの考えをプログラム言語等を用いて入力し、コンピュータから提示された結果によって、自身の思考の特徴や正誤を確認するというものです。
「思考の並走化」とは、インターネット等を用いて必要な情報を取得したり、子ども同士で意見の交流をしたりしながら自らの考えを構築していくというものです。
「学習分析・支援」とは、子どもの学習履歴をデータベース化し、学習過程を分析したり、分析結果を用いたりして、個々に適した問題の提供につなげていくというものです。
生成AIの新たな活用を、こうした4つの項目における教育利用のいずれに該当するかを判断し、教育的効果を冷静に検証していく視点が重要です。もちろん、生成AIは新たな技術ですので、既存の項目に当てはまらない教育活用の可能性も考えられます。その場合は5番目の教育活用を定義づけ、実証していく必要があります。
生成AIの教育的意義とリスク
生成AIに限らず、これまでもインターネット上の情報をそのまま用いて、自身の考えのように取り扱ってしまうといったことは、学校教育の中でたびたび問題になってきました。インターネット上の情報を参考にすることと、無断で引用することの線引きは、大人であっても容易ではありません。成長途上の子どもたちは、失敗しながらも、境界線を少しずつ学んでいきますので、見守りながらアドバイスをするという姿勢が必要だと思います。なお、ここでのリスクは、生成AIからの回答の捉え方に対するリスクと、生成AIに情報を入力することに対するリスクの2つの視点から、考えておくことが大切です。

横軸に「正解と誤り」、縦軸に「簡単と難解」を設定すると、生成AIからの回答には4つのタイプがあります。「①簡単で意味がわかって正解」タイプは、自分なりにはおよそ意味がわかっているのですが、確認のために検索するというもので、辞書や辞典のような扱いをするものです。「②難解で意味がわからないが正解」タイプは、修学旅行等の事前学習で大人を対象としたwebサイトから文章を引用してくるといったもので、言葉や文章の意味を聞いてみるとほとんどわかっていないというものです。「③簡単で正しいと勘違いして誤り」タイプは、最近話題のトピックに対して、フェイクニュースなどの誤った情報を回答するというものです。「④難解で意味がわからず誤り」タイプは、例えば、難しい数学の問題を間違って回答するといったものです。後者2つのタイプ内には、生成AI特有の「ハルシネーション(幻覚)」が該当します。
生成AIからの回答に対するリスクとしては、上記の②~④のタイプがありますので、それぞれのタイプに応じた指導をしなくてはなりません。②では自分の使える言葉に置き換えて意味を正確に理解することを目指す指導、③ではインターネットによる信頼できる複数のサイトの情報と照合することをねらいとする指導、④では教員や専門家からの知見を総合して正解を導き出す習慣を目指す指導が求められます。
もう一つのリスクとしての、情報入力する際のリスクがあります。個人情報、誹謗中傷的情報といったことを生成AIに入力してしまうというリスクがあります。なお、生成AIに関わらず、SNSでも同様なリスクがありますので、ガイドラインに沿った総合的・組織的な指導が必要です。
生成AIを授業で活用するためには
横軸に「個人学習と集団学習」、縦軸に「導入段階と発展段階」を設定すると、教室内での一般的な授業は4つのフェーズに分けることができます。それぞれのフェーズで生成AIを教育活用する方法については、次のようなものがあります。
「Ⅰ 動機付け・問題意識」フェーズでは、「既知の学習内容のおさらいとしての活用(復習)」、「未知の問いの内容を確認するものとしての活用(問題把握)」「未知の問いに対する解決の手がかりが見いだせない際の活用(ヒント要求)」などがあります。
「Ⅱ 学習方略・交流」フェーズでは、「自身の考えを構築していく際の活用(自己思考構築)」「自身の考えの妥当性を問う際の活用(自己思考確認)」「自身の考えと異なる考えを知りたい際の活用(意見交流)」などがあります。
「Ⅲ メタ認知・内省」フェーズでは、「自身の考えを、他の考えと対比して捉える際の活用(対比)」「自身の考えを、全体の中で相対的に批評する際の活用(相対化)」「自身の考えの十分ではなかったところなどの確認のための活用(内省)」などがあります。
「Ⅳ 応用・発展・エージェンシー」フェーズでは、「今回の学習内容の確かな定着のための活用(定着)」「今回の学習内容をもとに、応用問題解決のための活用(応用)」「既習内容との関連付けや、現実場面適用のための活用(発展・エージェンシー)」などがあります。
重要なことは、漠然と生成AIで調べてみようといった活用方法ではなく、学習場面に応じた的確な活用方法を選択し、実践・検証を繰り返していくことです。
子どもと生成AIの向き合い方
子どもの生成AIの向き合い方を考えるに際して、教員がまず行うべきことは、授業づくりや学級・学校経営に生成AIを活用してみるという体験です。
生成AIを、学校業務の相談ができる相手として位置づけ、様々な形で問いかけ(プロンプト入力)、生成AIからの回答によって自分自身を振り返るトレーニングをしてはどうでしょうか。子どもに生成AIを教育活用させることをする前に、まずは教員自身が生成AIを学校業務に活用し、メリットとデメリットを実感することが大切です。プロンプト入力や活用場面によって、生成AIからの回答が上手くいく場合と、そうでない場合が生じます。これこそが、子どもに生成AIを出合わせる際の大きなヒントになります。
どのような課題に対して、どのようなプロンプト入力をすることが、生成AIを有効に活用できるのか、またその過程において様々なリスクはどこに存在するのかといったことを、教員自身が体得することができれば、生成AIの教育利用に向けた枠組みはかなり明確になってきます。文部科学省、及び各教育委員会が設定しているガイドラインを確認しながら、子どもに対しては徐々に生成AIを活用していくという姿勢が重要であると思います。
そして、こうした活用が、子どもの何を成長させたことになったのかという教育効果を冷静に分析しなくてはなりません。生成AIの使い方がわかったというだけでは、瞬く間に技術が革新されていく変化の激しい社会の中ではそれほど教育的に有用ではないことも、肝に銘じておく必要があります。
参考文献:黒田恭史、津田真秀、葛城元編著「生成AIで算数・数学教育:明日の授業に使える25の実践例」(共立出版)2026年
黒田 恭史さんによるオンライン勉強会開催のお知らせ!
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