談話
文科省の「授業調査」に対する書記長談話
15日、愛知県名古屋市内の公立中学校が先月行った授業に対し、文科省が市教育委員会を通じ、授業内容や目的、講師依頼の経緯、学校の見解などの報告や録音データの提出を求めていたことが明らかとなった。国の行政機関である文科省が個別の授業内容を問いただす異例の事態であり、教育への不当な介入として、断じて許されるものではない。
戦前の軍国主義的な教育の反省に立ち、国による学校教育への関与は制限され、教育の内容は各教育委員会に委ねられている。教育基本法16条では、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより、行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」と規定されている。また、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)33条では、教育委員会が、その所管に属する学校の教育課程、教材の取扱その他の管理運営の基本的事項について必要な教育委員会規則を定めるものとしている。さらに、学校教育法37条では、校長が校務をつかさどり、所属職員を監督すると規定されている。教育委員会の規則に則って学校が定めた教育課程の中で、教職員が授業内容を企画・立案し、校長の責任と監督の下に教育実践を行っていくものであり、国が個別の授業内容に直接関与することは認められない。
16日林文科大臣は、「やや誤解を招きかねない面があった」「授業の狙いや招いた経緯を確認する必要があった」「法令に基づいた行為だった」など問題はないとの記者会見を行った。2007年に地教行法が「改正」され、文科大臣は53条「調査」、54条「資料及び報告」によって都道府県又は市町村に対し、法令違反などに対する事務の適正な処理をはかるため、必要な「指導・助言・援助」(48条)を行うことができるとされた。また、いじめなど「教育を受ける権利を侵害されていることが明らかな場合」の措置内容を示した「是正の要求」(49条)、「生命、身体の保護のため、緊急の必要がある場合」の「指示」(50条)ができることも限定的に規定されたが、そもそも各学校の個別の「授業内容」はこれらの規定に該当せず、調査そのものを行う必要性も権限もない。
今回の文科省による「授業調査」は、国が地方教育行政に影響を与えるものであり、教育の地方自治原則に照らし不適切である。また、教育委員会、学校、教職員に不要な委縮を与え、現場の裁量権を抑圧し、教育の自由、自主性を損ねるものである。さらに、市教育委員会に対し、執拗な質問を繰り返すなど意図的・恣意的なもので、調査が文科省への国会議員の照会に影響されて行われたとの報道もあり、今後、国会においてこの問題について明らかにされる必要がある。日教組は、引き続き、民主教育の確立と教育への不当な介入・支配を許さず、子ども・保護者・地域とともに、ひらかれた教育実践をすすめるとともに、自信と誇りをもって授業実践をすすめていく。
以 上