弁護団コラム

弁護団コラム(第15回)~公務災害3~

2023年09月21日
Q: 前回までの説明で、私が学校への通勤途中の駅で骨折したことが、公務(通勤)災害として補
償の対象となり得ることは理解できました。
もし、駅から自宅に忘れ物を取りに帰る途中で骨折した場合も、通勤災害として認めてもらえるのでしょうか?
A: 通勤災害は、通勤のための移動について認められます。忘れ物が、学校での業務に無関係な私
的なものであれば通勤災害の対象外ですが、例えば通勤に必要な定期券や授業で使う教材等であれば、それを取りに戻る行為も通勤のための移動として、補償の対象となるでしょう。
悩ましいのが、携帯電話やスマートフォンですね。最近は社会生活の必需品という位置付けで、業務に関するスケジュール等の重要な情報が入っている場合、モバイル定期や電子マネーを使っている場合、校外活動の引率等の連絡に必要な場合などもありますので、事情によって勤務に関係するものとして認められる可能性があるでしょう。
Q: なるほど。しょっちゅう忘れ物をするので、気をつけなくては…
実は、電車をうっかり乗り過ごすことも多いのですが、そこから戻る途中で骨折したような場合は、どうでしょう。
A: 通勤による災害と認められるためには、住居と勤務場所との間を「合理的な経路及び方法」
で往復しなければならないことは、以前、簡単に説明しましたよね。一、二駅乗り過ごしただけであれば、「合理的な経路及び方法」の範囲内として、通勤災害の対象となるでしょう。
Q: 逆に、あまり遠い駅まで移動してしまうと、通勤災害として認められる可能性は低くなるので
すね。乗り過ごしにも気をつけたいと思います。
ところで、私には保育園に通う子どもがいます。毎朝、共働きの夫と交代で、自宅から保育園経由で遠回りをして駅に向かうのですが、もし、保育園に向かう途中で転んで骨折したような場合は、通勤災害の対象となるのでしょうか。
A: 子どもを保育園に連れていくことは勤務のために必要なので、たとえ遠回りであったとして
も、合理的な経路と考えられます。
したがって、通勤災害として補償される可能性は高いと思いますが、保育園を経由する場合があることについて、事前に一言、学校の担当者に申し伝えておくと安心かもしれませんね。
Q: はい、担当者に伝えておくようにします。
私は、学校からの帰宅途中、スーパーに寄って買い物をすることが多いのですが、買い物後に骨折したような場合は、通勤災害として認めてもらえないですよね…?
A: 帰宅途中に、夕食の買い物をする、クリーニング店に寄る、普段から自宅以外で食事を済ませ
ている人が定食屋で夕食をする、病院や薬局に行く、といったことはよくありますよね。
合理的な経路から逸脱したり、中断したような場合、逸脱・中断の間やそれ以降の被災は、通勤による災害とは認められないのが原則です。ただ、これらの行動が、日常生活上必要な行為といえる場合、逸脱・中断行為の後で再び通常の経路に戻った後は、通勤と評価されることがあります。
Q: つまり…?
A: スーパーに寄って食材を購入することは、一般的に、日常生活上必要な行為にあたります。
スーパーの中で転んだのであれば、通勤災害の対象外ですが、スーパーを出て、いつもの通勤経路に戻ってからの骨折であれば、通勤災害として認められる可能性は高いでしょう。
Q: なるほど。これまで、自分で転んで怪我をした場合について質問してきましたが、通勤中に、
自動車にはねられたり、工事現場から落下してきた部材で怪我をしたような場合だと、何か変わるのでしょうか。
A: 第三者の行為による被災の場合、公務災害として(地方公務員災害補償)基金に請求できるだ
けでなく、加害者にも損害賠償を請求できることになりますよね。
1つの事故について二重に補償を受けることは公平の点から問題があるため、地方公務員災害補償法は、その調整方法を定めています(59条)。
2つの制度のうち、どちらを先行したほうがいいのかはケースバイケースなので、学校の担当者や弁護士に相談してみるといいですが、いずれにしても公務災害の申請の準備はしておきましょう。申請の際には、第三者の行為による被災であることを届け出てくださいね。
Q: はい、わかりました。
今回のお話で、通勤災害については、想像していたよりも広く認められる可能性があるとわかり、安心しました。次回も引き続き、公務災害について教えてください。
A: 承知しました!
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